息を止めるの | ナノ

2003
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決戦の地へと歩み始める真王陛下の郡、セィミヤの後ろで歩くNO NAMEは

吹雪の中、顔を上げた。

「…夜明け、」

赤い瞳が輝き始める、太陽が昇るのと同時に光が人を照らし始める。

その景色に胸が熱くなる、NO NAMEは自らの剣に触れた。

「……、トウヤ」

鮮明に残る兄の姿、NO NAMEの表情が歪むと、小さく息を吐いた。

――決戦が始まる。

席に座ったセィミヤを照らすのは太陽の光、決戦の始まる合図だった。

その時、セィミヤは立ち上がる。

「…セィミヤ様、見えますか」

「ええ、見えているわ」

NO NAMEとセィミヤの視線の先には頭蛇の群れがあった。

地上を埋め尽くすような頭蛇の数にセィミヤは瞳を細める。

NO NAMEは息を吸い込んでゆっくりと吐き出した。

「(王獣の気配がする…エリン、)」

先ほどから感じていた王獣の気配、それは紛れも無くリランのものだった。

興奮している声が聞こえる、それはこの頭蛇群れに向けてのもの。

「、エリン!」

セィミヤの前に姿を現したエリンにNO NAMEは目を見開く。

そして無事な姿を見て、微笑みを浮かべた。

「良かった、エリン」

「NO NAME…」

エリンもゆっくりと微笑んだ、その胸には音無し笛がつけられていた。

それにNO NAMEは表情を変える。

燃え上がるよに変化する心、それは瞳の色を更に濃くする。

「エリン、貴方を縛るのは……それは…っ、」

あれほどまで王獣を愛していた者、自由を与えたいと願っていたもの

そんなエリンが音無し笛を持っている。それは、なぜだと考えることもなかった。

NO NAMEは分かっていた、エリンに持たざるおえない事が起こったと。

その赤い思いがNO NAMEを繋ぐ糸を一つ一つ途切れさせていく。

「おじ様、私は貴方とは結ばれません、青い旗を持ってきて」

そのセィミヤの言葉が響いた。

その青い旗は真王の敗北を意味するものだった、セィミヤの思いは強くなっていた

だが、セィミヤの思いを無残に切り捨てたダミアは青い旗を奪う。

「そんなことはさせないよ、セィミヤ、さぁエリン、飛ぶがいい。」

エリンに向けられたダミアの視線にNO NAMEは顔を歪めた。

「(まさか、あの奇跡を起こそうというのか)」

降臨の野の奇跡。あの時と同じことをして大公を従わせようとするのか。

そのために、エリンを使うというのか。

「黙れ、」

NO NAMEの瞳は燃えていた、どうしようもなく燃えていた。

怒りは刃の矛先に、剣を抜いたNO NAMEはエリンの前に立つとダミアに剣を差し向けた。

「以前と同じことをするな、もうそなたらに選択肢はない」

NO NAMEとエリンの周りに潜んでいた仮面の男達は剣に手を触れた。

「…縛られることは散々だ!!」

「NO NAME、」

エリンの手が、NO NAMEの剣を握る手にふれた。

優しく暖かいその手が触れると、NO NAMEの表情が大きく変わった。

これから仮面の男共を葬ろうとする手をエリンは止めるように、触れる。

その暖かい感覚にNO NAMEは小さく笑った。

「エリン……私は、いろんなものに縛られている、自分で自分を縛っているんだよ」

ダミアだけのせいではない、いつからか、自分は民の掟に、自分で、縛られるようになった。

それでも自分は、自分でありたいと、思っていた。

「貴方を死なすことは、できない、エリン」

エリンの手を振り払い、地面を蹴ろうとした時、声が響いた。

「これ以上、この子を苦しめるものか!!!」

背後から飛び出した者の声、それはイアルのものだった。

イアルはダミアを一瞬で拘束すると、首元に剣を向けた。

「イアルさん、」

「迎えにくると言っただろう、さぁ旗をあげるんだ!」

NO NAMEは微笑むと、セィミヤと顔を合わせて頷いた。

エリンは旗を手早く持つと、それを持ち上げる。

しばらくして、頭蛇の群れの動きが止まる。

「…良かった。」

エリンの小さな声が聞こえた、NO NAMEはエリンの手を掴むと、頭蛇の群れを見つめた。

NO NAMEは微笑みを浮かべなかった、まるでまだ終わっていない、そう言っているかのような表情を浮かべている。

「NO NAME…?」

「……来る、」










 

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