息を止めるの | ナノ
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「イアルさん、大丈夫ですか?」
「…ああ、もう平気だ」
起きたイアルをトウヤは見つめると、顔を歪めた。
「おい、お前が逃げてきたということは、もう堅き盾はいないんだろう?」
「ああ、止めさせられた、かわりに」
―あの仮面の男共。
全てはダミアの支配下にある者達。
ここにいる三人はもう全て分かっているように呼吸する。
「NO NAMEは無事なのか?」
それにイアルは少し瞳を細めて頷いた。
「待って、なんでトウヤがNO NAMEのことを、まさか…」
「ああ、妹はあいつだ…生きていることも知っている」
エリンは一瞬目を見開いて、それから微笑ましい笑みを向ける。
「よかった…」
「貴方の存在も伝えた、一緒に逃げようと言ったが、あの子はそれを受け入れなかった」
イアルの話しにトウヤは顔を歪めたが、それから笑みを浮かべる。
「…エリンに忠誠を誓っているから、と言っていた」
「(あいつらしい…)」
トウヤは笑みをこぼしたが、エリンは唖然したように動かなくなる。
「まさか、あの子は私のためにダミア様の所にいるの?!」
「恐らく…」
「そんな…ひどい、」
NO NAMEもまた自分と同じ理由でここにいた。ダミアという人間をここまで恨めしく思ったことはないだろう、とエリンは思う。
沈黙した空気を切り裂いたようにトウヤは低い声を放った。
「俺たち、一族はそうゆう運命なんだ…誰かに縛られ、掟に縛られ、それでないと生きていけない、忠誠を誓わなければいけないように」
「…、」
「俺は約束した、助けに行くと…だから、」
イアルは立ち上がると、横に置いてあった剣を懐に差し込んだ。
「待って、まだ無理です!」
「……ここにいればまた追っ手がここにくるだろう」
「…お前に、NO NAMEが助けられるのか?」
イアルに向けられたトウヤの瞳は殺気を含んでいた、
“お前がもしNO NAMEに危害を加えることがあったら生かしておかない”
そう言っているような瞳が向けられる、イアルはそれをそらすことなく見つめた、
イアルには意思があった、強い意思が。
いつしか育った感情を含んだ強い意思が、イアルを動かしている。
「俺は、あの子が大切だ、失いたくないと思う、助ける、必ず」
―それが約束だから、
トウヤはその言葉に瞳を丸くして、一瞬時が止まったような空間。
だがすぐにそれはトウヤの笑い声によって打ち消された。
「…面白い、お前に一旦あいつの運命をたくそう」
トウヤの言葉にイアルは深く頷くと、王獣舎を出た。
「聞いたか、いい奴だと思っていたのに、嫌いになりそうだ」
「…どうして?イアルさんはNO NAMEを助けようと…」
エリンの言葉にトウヤは笑みを浮かべると、唇で弧を描いた。
「だってあいつ、NO NAMEを大切と言った…この意味分からないわけじゃないだろ」
エリンはそれに少し戸惑ったが、すぐに笑みを浮かべた。
「良かった…あの子を見つめてくれる人がいて…」
赤き運命を背負う民、アルタカの民。
運命に縛られ、掟に縛られ、忠誠を誓わなければならない民。
戦うことが誇りである、強く誇り高い戦闘民族。
はるか昔、彼らは緑の民に忠誠を誓った。
緑の民を守る赤い民は戦争で頭蛇を食らっていた。
あるとき現れた王獣達と互角の力を持つ彼らだったが、
その戦いは世界を真っ赤に染め上げた。
赤い民、世界を赤で満たす、不況の民。
恐怖ともいえるその力を持って生まれる、赤い人間たち。
その祖先は人間の姿をした精霊獣だったと呼ばれている。
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