息を止めるの | ナノ
19011/3
静かな王獣舎の中、壁に寄りかかりながらじっと地面を見つめているトウヤをエリンは見つめていた。
トウヤと王獣の空間、トウヤへの警戒を怠らない王獣がNO NAMEを思い出させる。
「(仲間がいることを伝えてあげたい)」
ダミアの元にいると聞いていてここに来たが、ダミアにNO NAMEへの面会を断られていた。
きっとNO NAMEは喜んでくれる、自分に忠誠など誓わなくても生きていける。
そう思っていた、またトウヤも民を亡くしたことを知っていて生き延びた一人だと聞いた。
NO NAMEのことは話してはいないが、トウヤの瞳はその話を寄せ付けないようにみえた。
壁に寄りかかりながら、王獣に笑いかけたり、エリンの仕事を眺めたり、
口数は少ないトウヤだったが、なんだか安心できる笑みを見せてくれる。
NO NAMEと似ている笑顔、赤い髪や真紅の瞳が同じだからだけではなく。
なんだか雰囲気が似ていた。
そんなトウヤはふっとため息をつくと、面白いものを見つけたような顔をしてエリンを見た。
「どうしたの?」
「…外が騒がしい、あいつらが森で剣を交えている」
その意味をエリンは察すると、王獣舎の扉に手を触れたが、開けようとするのをトウヤは止めた。
後ろから伸ばされた手によってエリンは扉から引き離される。
「…俺が行く、あんたは出るな」
真紅の瞳がエリンの瞳を見つめると、エリンの瞳が揺らいだ。
「…、」
そのまま王獣舎から出たトウヤの背中をじっと見つめて、小さく息を漏らした。
まだ知らない感情を浮かべなら。
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