息を止めるの | ナノ

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「はぁっ…、」

痺れてくる身体を必死に動かして、求めている少女を探していた。

追っ手から逃れながら、頭を働かせる。

「…NO NAME、」

ダミアから薬を盛られたイアルは、ここから逃げようと走っていた。

そして探していた、一人の赤い民を。

「(あの子も、一緒に…)」

脳内に浮かぶのは、笑うあの子の姿。

でももっと幸せそうに笑えるはずだった、もっと普通に生活できるはずだった。

たとえ戦闘民族でも、運命を縛られることはなかった。

仮面の男達に向ける思いを抑えるNO NAMEの表情が焼き付いて、

どうしようもない気持ちになる。

あの子をこの運命から解放させなくては、そして実の兄が生きていること伝えなければ

そしたら笑ってくれるだろうか、

裏のない笑顔を向けてくれるだろうか。

視界に入った赤い髪、地面を更に強く蹴る。

「イアルさん!どうしたんですか?!」

普通ではないイアルの姿にNO NAMEは瞳を丸くすると、不安そうな顔でイアルを見上げた。

「……っ、こっちに」

追っ手の足音が聞こえたため、近くにあった部屋にNO NAMEと共に隠れる。

都合のいいことにその部屋には誰もいなかった、暗い部屋の中、必死に息をひそめる。

追っ手が通り過ぎたことを確認すると、イアルはNO NAMEの肩を掴んだ。

「一緒にここから逃げるんだ」

NO NAMEは瞳を見開くと、しばらくイアルを見つめていた。

「イアルさん…追われているんですか…?」

「ダミアに毒を盛られた、邪魔な俺を排除したかったらしい」

「大丈夫なんですか?!」

イアルは頷くと、瞳を細めた。

「貴方も利用されるわけにはいかない、ここから出よう」

「…でも、セィミヤ様を一人にするわけには、いかないんです」

それはエリンを見つめていた時と同じような瞳だった、

NO NAMEの真の強い瞳をイアルは見つめる。

「…貴方の兄は生きている、ここにいる、貴方と同じくダミアに縛られている」

その言葉を放った瞬間、NO NAMEの赤い瞳が見開いた。

静かな部屋の中、息をする音も止まってしまったようだった。

「…トウヤ、が生きてる」

NO NAMEの頬に一筋の涙がつたわった、それにイアルの胸がズギン、と痛む。

無数の刃を刺されたようなその痛みに、小さく顔を歪めた。

「(どうしてだ、)」

笑ってくれると思っていたのに、涙を見せたNO NAME。

その表情は笑みを浮かべることはなかった。

瞳を閉じる度に溢れ出る涙、その旅に胸が締め付けられる。

「……生きているのに、トウヤは縛られているの…?」

「…!」

NO NAMEにとって兄が縛られている、それがどうしようもなく苦しいことだったのならば、

自分が今感じている苦しみと似たような思いを抱いているのか。

「…ここから逃げて、トウヤを助け出すんだ」

「…できな、いっ……私は、忠誠をエリンに誓った、エリンのために、」

――そうだ、この子も縛られているんだ

――――ダミアと掟、その両方に。


「(なんて運命なんだ、)」


「だから、早く逃げて、絶対生きてください」

涙を溢れさせる赤い瞳は輝いていた、さっきよりも真の強い瞳だった。

「……俺は、絶対に貴方を助けにいく」

イアルはNO NAMEを引き寄せると、背中に回す腕に力をいれた。

耳元で囁かれた言葉にNO NAMEは小さく笑う。

「…イアルさん、絶対生きてください」

イアルは力強く頷くと、NO NAMEからゆっくりと離れた。

「貴方も、死なないでくれ」

「…まだ、死ぬわけにはいきませんから」




その言葉と同時にNO NAMEは笑顔を見せた。

今までに向けられた笑顔とは違う、笑顔を。












   

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