息を止めるの | ナノ

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「っ…」

王獣の本来の姿を私は知っている。

闘蛇を喰らい、引きちぎる姿。

でもそれはきっとエリンには辛い、そう思うから。

エリンを傷つけたくないから、リランには近づいて欲しくなかった。

だが目の前でリランは闘蛇を引き裂いている。

もう間に合わない。

NO NAMEは闘蛇が御座船へとどんどん上がってくるのを見ると、

剣を構えた。

“闘蛇など敵ではない、剣に力を込めろ”

そう兄はよく言っていた。

剣に力を入れると、勝手に身体は動く。

次々と闘蛇を切り裂くが、キリがない。息を深く吐き出すと、

自分を囲んだ闘蛇達を見つめた。

「退け、闘蛇達よ。我が血に叶うと思うか」

NO NAMEから発せられたのは言葉だけではなく。

とてつもない殺気だった。

その威圧感に闘蛇達は一歩また一歩と足を下げる。

そのとき、NO NAMEは初めて闘蛇の上に乗っている人間達に気づく。

「お前らは…っ…」

NO NAMEが映していたのは闘蛇のみ、闘蛇を切り裂くために。

だが視界に入ったその闘蛇に乗り込む人間達には仮面がつけられていた。

憎き、仮面の男共。

それは自らの瞳を燃え上がらせる。

気づいたら闘蛇の上にいた、仮面の男の胸をまっすぐに刺すと、苦い声が聞こえた。

「このっ!!」

もう一人の仮面の男が剣を振ろうとした前に腹を蹴り上げて、

闘蛇から転げ落ちた男を、背中から剣を刺した。

そのまま闘蛇の頭を切り裂いていく。

「ば、化け物だ……」

次第に闘蛇も引き始めた頃、聞こえた声。

それは堅き盾から聞こえた声だった、ゆっくりと後ろを向くと

その男は怯えるように瞳を見開いた。


床に転がっていた仮面を剣で砕く。

横切る、あの時の光景。

―――逃げろ、お前は

真っ赤に染まる、私たちの民。

―どうか、お前だけは。

蝦の鳴くような声で放たれた家族の言葉。

全てが頭を強く動かす。

ああ、腹がたつ。なんで、なんで。

化け物と言われてもいい。私は、この仮面共の息を止められればいいのだ。

「命を救われたというのに、その言い方はなんだ」

「隊長…っ…、」

男に近づいたのは、あのカザルム学舎に来た堅き盾だった。

「いいんです、それより手当を」

男の腕からこぼれ落ちる血を見ると、向き直った。



   

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