息を止めるの | ナノ

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NO NAMEは王獣舎から出ると、真っ直ぐ学舎へと向かっていた。

だが、その足が止まると、静かにNO NAMEの口元は弧を描いた。

目の前から小さな音を立てて現れたのは、陛下に仕えている堅き盾の一人だった。

「…お前、何者だ?」

目の前に現れた堅き盾の男、カイルはサイコロを握り締めていた、

そして笑うNO NAMEの口元を見て、顔を歪める。

「警備員ですよ」

NO NAMEは静かにそう言った、

が、カイルは細めていた瞳を大きく見開いた。

「お前、女…?」

耳に入った高い声、それはとても男とは思えないような細い声。

拍子抜けしたような声をカイルは出してしまう。

彼にとってNO NAMEが女であることが信じられないようであった。

自分の隊長でもイアルの言った言葉や、NO NAMEの放つ雰囲気からカイルは

間違いなく怪しいものだと思い込んでいた。

また、その怪しいものはもちろん男であると、

「(小柄だとは思っていたが)」

カイルはため息をつくと、もう一度NO NAMEを見た。

「女が…警備員か」

「おかしいですか?」

「まぁ一般的には、な」

NO NAMEが女だと知ってもカイルの警戒が薄れることはない。

その放つ雰囲気が変わることのないように、カイルもまたNO NAMEに警戒心を抱く。

「ずいぶんと勇気があるんだな、まさか王獣の前に飛び込むなんて」

「真王陛下のためなら」

NO NAMEの言葉には偽りがあった。

決して真王のためではない、エリンのためだった。

NO NAMEの行動全てはエリンのためなのだ、例えエリンが真王と対立しても

エリンを選ぶ。それがNO NAMEにとっての絶対。

でもそれを口にすることはなくNO NAMEはすぐに答えてみせた。

それにカイルは目をそらすことなく、NO NAMEを見つめた。

「そうか、でも…女の警備員ができることじゃないな」

「何が言いたいのですか?」

遠まわしな言い方にNO NAMEの言葉も牙をむいたように見えた。

「だから、何者なのかを聞いている」

NO NAMEの後ろにもう一人の堅き盾、イアルが現れた。

だが、NO NAMEの口元はピクリともせず、そのまま。

知らなかったわけじゃない。NO NAMEは気づいていた、

もう一人の堅き盾の気配に、ずっと自分の後ろを付けていたことも知ってた。


「だから、警備員ですよ」

何回も言わせるな、とでも言っているかのような口調に、

イアルは顔を歪める。


「ちょっと勇気があって、真王陛下に忠実な、ただの警備員です」

それにイアルの口が開かれようとした時、学舎からトムラさんの声が聞こえた。

「おーい、NO NAME!ちょっと手伝ってくれ!」

それにNO NAMEは答えると、二人に会釈して、走り去っていった。

それを止めようとしたカイルをイアルは引き止めると、

カイルの瞳は細まる。

「いいのか?」

「今は、いい…」

まだ彼女が怪しい者であることを証明できない。

カイルは緊張がとけたように一気に身体の力を抜く。

「どうした」

「いやさ、なんだかすごい威圧感があると思って、目の前に立っただけでもビンビン感じたぞ」

さっきはそんな感じしなかったのに、

そう言うカイルにイアルも頷いた。

「俺たちは嫌われているようだな」

イアルも感じていた、

多分目の前に立ったときよりも強い威圧感を、

背後にいることを許さないような、感覚を。



 

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