息を止めるの | ナノ
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「…、」
急ぎ足を止めないように歩く。
やってしまった。いないと思っていたところにいた。
落ちていたサイコロを拾わずに歩いていればよかった、
「…あの人、」
自分を見たあの男はきっと警備隊長だろう。
勘がいい、何かに気づいているように見えた。
怪しまれたな、もう表に出ないようにしたいところだが、
エリンのことが気にかかる。
王獣がいる方へと足を運ばせれば、思ったとおり真王陛下がリランのすぐ傍まで行っていた。
それを心配そうに見回るエリンが影に隠れている。
「エリン、」
「NO NAME、」
「こんな所にいたら目立ってしまうよ」
「でもリランに近づくと…」
エリンの視線のさきを見つめると、
近かった距離を更に近づけようとしている。
小さな唸り声を上げていたリランが大きく立ち上がったと同時にリランの甲高い声が響いた。
「お、音無し笛を!!」
「吹かないでっ!」
そう大きく叫んだエリンが走り出そうとするのを、片手で止めると、
私は地面を蹴った。
あの警戒の声、心臓が高鳴る、口元が釣りあがる。
小さくエリンが名前を呼ぶ声が聞こえたが、構わず大きく立ち上がったリランと陛下の間に入った。
私を視界に捉えた瞬間にリランの瞳は大きく見開くと、
一歩また一歩と足を後ろに下げた。
警戒が解けないリランに微笑むと、アルを見つめた。
アルもまた私に向かって弱いが警戒する声を上げた。
「まだ小さい君でも私を警戒することができる、さすがはリランの子だね…」
アルにそう言って微笑むとアルの警戒の声が少し弱まった。
そしてエサルさんの小さな声に気がつくと、慌てて振り向いた。
我慢できなかったのかエリンが近くに来ていた、だがエリンはリランに話しかけることはなく
陛下に手を伸ばしていた。
エサルさんを目を合わせると、そそくさその場から退散した。
ダメだ、我慢できなかった。
血が騒ぐのだ、こんな状況で。
警戒する声が、私を高ぶらせる。
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