息を止めるの | ナノ
10022/4
「今日か…」
普段より深く被り物を被ると、息を吸ってから部屋を出た。
今日は気持ちのいい陽光だな、と思いながら王獣の方へと目を向けると、
ちょうど王獣舎からリラン、エク、アルが姿を表していた。
そして甲高い声を上げる、耳の中を通るその声を聴きながら、静かに吐息を漏らした。
「NO NAME」
「エサルさん、おはようございます」
それにエサルさんも微笑みながらおはようと言うと、私の頭に手を乗せた。
「やはりそれをしていると全然わからないわね」
「はい、」
「それで、もうすぐ警備の人たちがくるのだけど、怪しまれないようにね」
「この格好は十分怪しいと思われます、ただえさえ被り物をしていますし」
「まあ、そうなのだけれどエリンほどではないけど、あまり目立たないように」
私の場合は正体が分かっても構わないのだが、
カザルムに嫌な噂がたてられる気分が悪い。あまり目立たないようにしよう。
「分かりました」
そう答えるとエサルさんは頷いて少し急ぎながら正門へと向かっていった。
それを見送ると自分も目立たない所へと歩いた。
「エリン」
歩く道の中緑色の髪を見つけたので声をかけると、エリンは振り向いた。
「もうすぐ授業?」
「ええ、今日は早く終わらせてもらうけれどね」
「そうだね、もうすぐ警備の人が来るらしいから気を付けて」
「分かったわ」
エリンはそう言って微笑むと、教室に入っていった。
それを見送ると人が目立たない場所へと足を進める。
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