息を止めるの | ナノ
09011/3
「NO NAME、調子はどう?だいぶ慣れた?」
お昼前の見回りに回っていたとき、エリンの声が聞こえたので振り返ると、
そこにはエリンともう一人の教導しトムラさんの姿があった。
それに一礼すると、口を開いた。
「うん、もうだいぶね。」
「でも疲れちゃうでしょ、一日中立っているんだもの」
「ううん、王獣も見れるし、大丈夫」
そう言うとエリンは笑った。
そしてそろそろ時間だとトムラさんと教室に戻っていく。
私はまた見回りを開始した。
もうすっかり雪は降らなくなった、早いものだな、と思っていても気を抜くとまた寒くなる。
警備の仕事を始めてから三日だが、結構仕事に慣れたような気がする。
ここの教導師の皆さんは私の正体を知ってはいるが、素顔までは見せていない。
生徒には明かされていない事実なので、念のため。
でも黒い服に被り物はやはり不信がられるようで、
生徒は話しかけたりしない。
話しかけようとも思わないが、一生懸命勉強している。
そんな姿を見るのがなんだか好きになった。
「!」
聞こえた王獣の高い声が聞こえた方へと目を向けると、
小さな王獣がリランに沿って歩いていた。
「…あれが、」
あれがエリンの言っていたリランの子、
リランはつい最近出産したばかりだと聞いていた。
またリラン達の後ろを歩くいているのが、子の父親と聞いている。
初めて見るその姿になんだか微笑ましいものを感じた。
遠い距離なのでよく見えないが、あれから王獣にはあまり近づかないようにしている。
私のせいで王獣の気分を悪くはしたくない。
あの王獣を遠くで見ているだけで、なんだか安心する気持ちになれる。
数分そこに立ち止まっていたが、息を吸うと、また歩き始めた。
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