息を止めるの | ナノ
08033/3
「ほう、ではアルタカの民は襲撃されたと言うのか?」
「はい、何者かに」
ダミア様にアルタカの民の事を告げれば、なんだか変な笑みが返ってきた。
「あの民を滅ぼすことができるとはな…」
まるで分かっていたかのようなその表情を見つめていれば、
ふいにあの赤い姿を思い出す。
「そうだ、聞いたぞイアル…一人、生き残りがいたそうじゃないか」
「はい、大怪我をしていたようで血のあとを追っていましたが姿は見当たりませんでした」
「死体は?」
「見当たりません」
それに瞳を閉じて何かを考えたダミア様は瞳を開けると、
不敵な笑顔を浮かべた。
「まあ、いい…アルタカの民はすでにここにいる」
その声と同時に部屋に入ってきた人物に目を見開いた。
「トウヤ」
そうダミア様に呼ばれた男の髪は真紅に染まり、瞳は赤く燃えていた。
間近で初めて見るその姿に息を飲むと、
その赤い瞳はこちらに向いた。
その瞬間体全身を震え上がらせるようなその視線、動けなくなる。
なんだ、この威圧感は…。
これがアルタカの民なのか。
まだ若く、自分と同じくらいの男の顔つきはとても安らかとは言えなかった。
何も言葉を発しない男にダミア様は笑った。
「固くなるなトウヤよ、分かっているだろう?」
「……はい」
その言葉に小さく返事をした男だったが、その威圧感は消えなかった。
彼を囲む空気は殺気に似たもの。
なぜ襲撃されたアルタカの民がここにいるのか、
聞くことはできなかった、
ただ燃えるような瞳を持った彼だが、その奥の色が霞んでいるような気がした。
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