息を止めるの | ナノ
07022/3
「この王獣達は…警戒しないのね、」
さっきから感じていた視線だったが、あえて口には出さなかった。
そしてようやくその視線の先のエリンは私に近づくと、
言葉を発した。彼女も気づいているようだった。
「この王獣達は違う。王獣ではない」
「…それは、それはしょうがないことなの」
私の言葉にすぐさま言葉を返したエリンの表情を見つめていると、
ひどく悲しげな顔をしていた。
何かをいいたそうな顔をしたが、口は開かなかった。
“しょうがない”
その言葉がひっかかる。エリンほどの王獣の使い手である者が
そう言うのだ、何か理由があるはず。
だが自分から知りたいとは思わなかった。
「…私は、王獣を目標に生きてきたの」
突然飛び出した言葉に自分自身もびっくりした。
ただ落胆した胸のせいか、ひどくあの過去を思い出す。
過去と言えるほど昔のことではない、最近のことだ。
なのに自分の過去にしてしまいたい。消え去って欲しい。
それは叶わないから自分の中でぐるぐると回る想いは収まらない。
ずっと回り続けてどうなってしまうかわからない。
これは恐怖に似た感情。
「王獣を目標に…?」
「私の一族は皆そうだった、」
王獣と対等な力を持っていた一族だったが、
どこまでも気高い王獣に憧れていた。
「でも…この王獣は違う、私たちが憧れたものではない!!!」
理由は知りたくはなかったが、収まらない気持ちは破裂しそうだった。
自分はそれだけを目標に生きてきたのに、
全てを失った私にはそれしかないのに。
当の王獣達は変わってしまっていた。すりつぶされる思いだ。
闇の中に捨てられ、フタをされたような気分。
もう逃げることはかなわないような、そんな思い。
王獣を見つめる瞳が険しくなったのを自分でも感じた、
その瞬間視界は揺らいだ。感じた暖かい感覚と背中に回った手に瞳を瞬きさせる。
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