息を止めるの | ナノ
06033/3
「村は襲撃されたんです。闘蛇に」
「闘蛇っ?!」
声をあげたのはエサルさんだけではなくエリンもまた目を見開いていた。
忌まわしい記憶は鮮明に頭に残っている。
消えて欲しいのに、消えてくれない、あの感覚。
声、血、赤く染まる人々、火、闘蛇
「多少の闘蛇であれば私たちは対抗できるのですが、闘蛇は村の人数の倍いました」
そして闘蛇を連れたのは、
黒い仮面の者達だった。
それぞれ腕はたつがアルタカの民よりは強くはなかった。
だが闘蛇がいるとなっては違う。
皆、闘蛇の相手をしているうちに殺されてしまった。
「…なぜ、そんなことに」
「分かりません」
それは自分が聞きたかった、なぜ、なぜ。
そもそも自分の村の場所は他の人間達は知らないはずだった。
なのに、襲撃された。
「そしてみんな死んでしまったんです」
「まさか…、」
エサルさんの見開いた瞳は黒く渦巻いていた。
今も鼻に残る匂い、それは物の焼ける匂いではなかった。
人の焼ける匂いだった。
仮面の者達は村に火をつけたのだ、
赤く染まる村がだんだんと黒くなっていく、
忘れられない、記憶。
―――お前は逃げろ
忘れられない家族の背中
――早く
―――――早く、
忘れられない声
――ほら、お前にこれをやる。
―欲しがっていただろう?だからお前は生きろ。
生きろ。生きろ。
そう言ってみんなは赤く染まっていくんだ。
真紅の髪、真紅の瞳だけではなく、全身が赤く染まっていく。
―――生きろ
「生き残ったのは、私だけです」
それはあまりにも虚しい現実。
一生背負っていく、記憶。
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