息を止めるの | ナノ
06022/3
「おい、NO NAME。」
一人でいたはずの森の奥、後ろからかられた声にびくついた。
それは知っている声でゆっくりと後ろを振り向くと、そこには兄の姿があった。
兄は歪んだ顔で私を見つめると、低い声で言葉を放った。
「お前、ここがどうゆう所か分かっているのか」
「……うん」
兄は今怒っている。すぐに分かった。
自分は今いけない事をしているから、滅多に出さない低い声に思わず背筋が震えた。
そして兄はゆっくりと私に近づくと、呆れたように息を吐いた。
「まったく…母さんに知られれば怒られるぞ…」
「…分かってる、それでも、それでも強くなりたかったから」
それは自分の正直な言葉だった。
そしてふいに感じた感覚、兄は私の頭を撫でていた。
その優しい感覚に瞳を閉じる、
「しょうがねぇ、母さんには言わないが、そのかわりに…俺と勝負だ」
「……分かった。」
楽しげな表情で兄は自分の持っていた剣を鞘から抜いた。
それはまぎれもない真剣で、太陽の光で反射した。
私は兄の剣が羨ましかった、兄の長く、細く、美しいほどに輝いていたからだ。
「じゃあ勝ったら、その剣をくれる?」
「バカ言え、誰がやるかよ。」
私も自分の持っていた剣を鞘から抜く。自分のものも真剣だが、
兄のお下がりであった。それでも他の人のより立派だったが、
私は兄の美しい剣に憧れていた。
18になれば長老様から直々に自分に合った剣を渡される。
「お前ももうすぐだろう、」
そう、自分ももうすぐ渡される予定だったが、兄の剣がひどく羨ましかった。
息を吐いて、高鳴ってくる胸を抑える。
「いくぞっ、」
目の前にいた兄の姿が消えると、すぐ後ろで気配を感じた。
「っ…、」
後ろから降り下ろされる剣をかろうじてよけると、兄は攻撃のスキをあたえないほど
早く剣を降ってくる。
攻撃するスキがない…。
昔は兄の攻撃はよけるのが精一杯だったが、自分も毎日剣を降ってきた、
もう昔とは違うはず。
一瞬の兄のスキを見抜くとその瞬間に剣を突き刺した。
「おおっ、」
兄はそれをよけたが、それ以上攻撃はしなかった。
そして微笑んだ表情を見せると、自分も頬を緩めた。
「強くなったじゃねーか」
「それも、ここのおかげだよ」
そう言って苦笑したが、鼻についた匂いに顔を歪ませた。
兄も気づいたようで、同じく剣を鞘に抑えた。
それは物が焦げたような匂いだった。
そして私と兄は目を見合わせると、地面を蹴って離れた村へと向かった。
焼けるような匂いは村のほうからした。
嫌な予感と脈打つ心臓を抱えながら、私ははしった。
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