息を止めるの | ナノ
08.5012/2
「エリンを追跡しているのは、貴方ですか」
警備員として学舎にいた時に感じた、エリンへの目線。それはすぐ近くの森からするものだった。人影が見えたので、後をつけてみれば、その人物はこちらを向いた。被っていた布を下ろすと、私の目は見開く。
「!」
視界にうつった緑色の輝きにすぐさま膝まづいた。霧の民、エリンと同じ霧の民の一族。
「・・・お前は、まさか」
「はい、私はアルタカの民、NO NAMEといいます。」
「アルタカの民だと、生き残りがいたのか」
たったひとりの生き残り。それが深く胸に染み渡ると、小さく息が溢れた。
「・・・なぜ、エリンを」
「あの子が大罪を犯さぬようにするためだ」
「大罪・・・、」
大罪、それが何を意味するのか、私はまだ理解できなかった。霧の民とアルタカの民。深く関わりがあろうとも、それは上下の関係。私たちはこの一族に尽くさねばならぬ、存在。だからこそ戦闘民族。
「・・・たった一人ならば、我が村へ来い。ここにいるよりかは・・・」
「いえ、私はここに残ります」
深く頭を下げたまま、私は思う。エリン、王獣、この学舎の人々。私に居場所を与えてくれた、人々。
「ならば、エリンが大罪を犯すような時が来れば、それを止めろ」
その言葉と同時に私は顔を上げた。大罪、エリン。
「私には、できません」
「なにを・・・お前は霧の民に忠誠を誓うアルタカの民であろう」
そうだった。確かに、そうだった。でも今は、霧の民であるエリンに
「私は、エリンに彼女に忠誠を誓いました」
彼女の笑顔に、優しさに、王獣を想う、その心に。
全てに、だから彼女を裏切るような真似は絶対にしない。
「・・・・・・お前も大罪者になろうというのか」
エリンの大罪、エリンがそれを正しいと思ったのならば、それは正しい。
私は彼女を信じる。それだけのことだ。
彼女が大罪者になろうというのなら、喜んで私も同じ存在になろう。
彼女の罰もすべてを受けよう。
「はい」
その言葉に、目の前の霧の民の顔は歪んだ。
「・・・私は、それを止めよう。」
その瞳にうつるものは、悲しみをおびていた気がしてならない。霧の民の彼は一体何を抱えて、その大罪を止めようとするのか。何を思ってそんな瞳をするのか。私には、分からなかった。
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