息を止めるの | ナノ
00733/4
「・・・どうした」
重たい瞳を開けば、イアルさんの手が頬に触れた。知らぬ間に流れていた涙をイアルさんは拭うと、横たわる私に優しい瞳を向けてくれた。隣で寝静まるトウヤ達に聞こえないように、小さく囁く
「・・・悪い夢を見たの」
悪い夢だった。生まれた子がトウヤとエリンの子と同じ真紅の髪と瞳を持っていて、そのせいで周りから狙われ、命を狙われる夢。
「・・・そのことを何度も考えてた、」
そのせいで私が怪我したことも、命を脅かされそうになったこともある。子供にはそんな思いしてほしくない、幸せになってほしいのに。
「トウヤも同じことを言っていた」
「・・・うん」
「それでも、信じているんだと思う」
なんとなくその先の言葉は想像できた。トウヤも私も同じことを願っている。
「俺と君の子だ・・・強くなる、全部乗り越えてくれる」
「うん・・・、」
また涙がこぼれ落ちた。すごく想像できてしまったから、これからの子供達が強くあれるであろう未来を、何があっても大丈夫だよ。私とイアルさんがいるよ。
人生って、色々大変なことがたくさんあるけれど、楽しいことだってたくさんある。
一人ぼっちだと思っていても、本当は周りにたくさん仲間がいるから
強く、強くあれ
「どうした?」
「・・・・・・今、」
静かな森の中、王獣の声を聞こうと耳をすませたとき、聞こえたのは優しい優しい母の声だった。
「母さんの声が聞こえた」
たくさんの思い出があるこの森の中、幻聴なのかもしれない。よく母にここで稽古をつけてもらった。今は懐かしい、その思い出が胸に染み渡る。
「・・・お前もそろそろだな」
「うん、私は母さんの剣を継ぐの」
18になれば正式な剣を受け継ぐことができる、もうすぐ、母さんの剣を受け取れる。誇り高く、強く、優しかった母さんの剣。今は父が所持しているけれど、ちゃんと受け取れる。
「ファイはおじ様の剣を継いだんだっけ?」
「ああ、正式には父の剣を継ぐのはお前になるけどな」
「どうして?」
「父さんは昔お前の母さんに自分の正式な剣を渡したそうだから」
それは、私が継いでもいいものなのかと、頭を傾げれば、ぐしゃりとファイに頭を撫でられた。真紅色の私と同じ瞳をファイは細めれば、小さく笑う
「お前が継げ」
「・・・うん」
母は言っていた、気高くなくていい、闇を恐れてもいい
ただ、強くあれと
心だけは、強く、強くあれと。
そして目の前に現れた王獣に胸のざわめきを感じる、自身の剣をゆっくりと鞘から抜けば王獣にまっすぐと向けた。母の代から戦ってきた王獣だった、子供の頃から母が王獣と戦っているの見て、鳥肌が立ったのを覚えている。私も、私も・・・。そんな気持ちばかりが交差して、気づいたら剣をとっていた。
「不思議だね、王獣の声が聞こえるような気がする」
お前は似ている、よく似ている。
そう言っている気がして。唇を噛み締めると、地面を蹴った。
完
← →
[しおりを挟む]