息を止めるの | ナノ

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「エサル先生、あの子目を覚ましました」

「そう、大丈夫だったかしら」

「はい、傷の治りが思ったより早くて……それに、」

瞬きしたエサル先生に先ほど起こった事について離すと、

そうね、と頬杖をして少し考えた先生は口を開いた。

「やはりアルタカの民なのね、忠誠…ね」

「私、忠誠なんていりません」

そもそも私は霧の民でいる資格などないのだから、

それにあの子の瞳が美しいのに、切ない。

「そうでしょうね、あの子には聞きたいことがいっぱいあるけれど…傷が完全に癒えるまでここにとどめておきなさい」

「はい。」

それに微笑むとエサル先生も笑った。

そろそろリランの餌の時間だと思って先生の部屋を出て王獣舎に向かった。

「リラン、ご飯の時間よ」

餌の入った桶を持って中に入るといつもより緊迫した空気がそこにはあった。

鋭い目線がこちらに向けられる、それは紛れもないリランのもの。

じっと私を睨んで、静かに唸り声をあげる。

「リラン…?」

戸惑う自分が止められない、私に敵意を向けるリランに近づこうとすればリランは怒るだろう。

どうして、どうして…。

「私のせいです」

「貴方…っ」

後ろから聞こえた声に振り向くとそこにはアルタカの民の少女、NO NAMEの姿があった

小さく頭を下げた彼女の表情は無表情よりも暗い顔だった。

そこから流れ出る雰囲気に思わず息を飲んだ、近づいてはいけない。

そんな感覚が体中を走る。

「傷は?寝ていてと言っていたでしょう?」

「傷は大丈夫です、眠れないので外の空気を吸いたくて外に出たら貴方が見たので」

ついてきました。と言ってみせる彼女だったがその視線は私には向かないまま、

リランを見つめていた。またリランも睨むようにNO NAMEを見る。

その二人には高すぎる壁があるようにも見えた。

「……リラン、どうしたの、落ち着いて」

私が近づこうとすればまた警戒の声を上げるリランに思わず手にもっていた桶を落としける。

「貴方の服についた…私の匂い、私を運んだときについた匂いです」

「匂い…?」

「王獣はアルタカの民とは対立し合う種族のようなもの。私も王獣もその種族の匂いを嫌います」

それに少し顔を歪めたNO NAMEの顔に反応するようにリランも更に警戒を強めた。

「だから貴方は服を取り替えたほうがいい、私のせいです、お詫びします」

それに深々と頭を下げようとしたNO NAMEを止めると、小さく頭を降った

「私、忠清なんていらないわ。とにかく今日は部屋で休んでいて」

力強くそういうと、それに頷いたNO NAMEは王獣舎を出た。

あんな深い傷は治っていても体的には辛いはず。

歩いていられるのも不思議なぐらいだ。

「リラン、ごめんね。着替えてくるから」

なぜ対立するのか、


なぜ匂いを嫌うのか。


それは人になれぬ王獣だからという理由とは無縁な気がしてならなかった。








   

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