息を止めるの | ナノ

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「・・・、」

ようやく見慣れた自分の家が見え始めた頃、その家の前に立つ人影に気づく。

小さなその背中は確かに彼女の者であって、思わず地面を蹴って走り出す

「・・・動くなと言ったのに、」

おおきな腹を抱えて動くのは、危険なこと。家事も自分がやるから安め、と常に言っていた。

もしかしたら、子が流れてしまうかもしれない。この時期だと彼女さえも息を止めてしまうかもしれない。

よくわからない恐怖に何度頭を悩ませただろうか。

だが、家に近づいたときに見えたもうひとつの姿に、息を吐き出して足を止める

「・・・カイル」

カイル、自分をよく知り、長い付き合いの友だった。カイルは自分に気がつくと、手を振り上げたので

NO NAMEもゆっくりと振り返る

「よぉ、久しぶりだな」

「・・・そうだな、」

近づいて、小さく笑うカイルの表情に、眉を寄せる。

複雑なわけではない、ただ純粋に、カイルの気持ちが心配だった。

カイルは、俺と同じく、彼女を好いている。

「・・・余計なことは考えるな。お前はちゃんとこいつを守れ。それだけだ。じゃあな」

「カイル、」

横を通り過ぎて、小さく笑うカイルの横顔に、何も言えなくなってしまった。

だが、振り絞って出てきた言葉に、自分自身もすこし驚く

「・・・ありがとう」

「らしくねぇーぞ!!」

そう言いながら小さくなっていくその姿。そして自分の腕に触れた冷たい手に、瞳を細める

「おかえりなさい」

「動くな、といったはずだろ」

「カイルが来てくれたんだもん。」

小さく笑う彼女の表情は少し青白く見える、小さなその身体を支えると家の中へと彼女を引き戻した。

そして毛布を被せると、温かい白湯を彼女へと与える。

「・・・早いね」

「ああ、早く帰ってきた」

「そう、なんだ」

息を吐き出して、ゆっくりと白湯を飲み込む彼女を眺めて、ずっと考えていたことを話してみることにした

きっとこれは必要なことで、とても大事なことなのだから

「その子が生まれる前に・・・・・・カザルムへ行こうと思っている」

感づいたように彼女は小さく声を漏らすと、少し考えるようにして黙り込む

小さく唇を動かすと、彼女は同意の意見をくれた

「トウヤには伝えておかないと・・・」

きっと彼は俺に怒りを向けるだろう。分かっている、俺の浅はかな行動のせいだ

だからこそ、彼女の状態を伝えなければいけない。

「じゃあ、エリンにもよろしく言っておいて」

それに頷くと、カザルムへ出かける準備をするために立ち上がった。


   

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