運命の女神 | ナノ

会ってはいけなかった人
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「ねぇ、晶ちゃん、冠ちゃんこの本見たことある?」

難病を患った妹は一時帰宅療養中で、

久しぶりに妹が家に帰ってきた。

陽毬が差し出した本に兄貴も俺も首をかしげた。

「どっから引っ張り出してきたんだ〜?」

それはホコリまみれの、一冊の古び本だった。

真紅の背表紙のその本は見たことのない本、

「押入れのずぅーと奥にあったの」

「知らない本だな、こんなのあったんだ」

子供の頃の本だとしてもこども向けではなさそうな本に、兄弟揃って悩む。

「あーもう開けちまえばいいだろ!」

兄貴が本を陽毬からとって、

ゆっくりと開くと、絵のない文字だけのページが広がった。

"運命の女神"

「運命の女神?」

「題名、みたいだね?なんかの話?」

「私は、知らないなぁ…」

兄貴が次のページをめくろうとしたとき、

「あ、こげちまう!!」

自分は台所から目を離していたことに気づいて、

あわてて火を消しに行く。

「よかった…」

せっかくの生姜焼きが焦げるところだった。

もったいない、もったいない。

炊いたご飯をよそって、食事を持っていくと、

もうあの本は閉じられていた。

「わぁ、久しぶりだなぁ晶ちゃんの料理!」

「あぁ!たーんと召し上がれ!」

「よし、今日もいい感じじゃないか」

「当たり前だろ!」

食事を終えた所で、あることに気づく。

「あ、この時間帯特売日だ!!」

「こんな時間にか?」

「そう!今日は特別めっちゃ安いんだ!」

だん、と立ち上がると、財布と携帯を持って、

家を出ていく。

「晶ちゃんのしょうが焼き冷めちゃうね、」

「まぁ平気だろ、あいつにとってはあれが一番大切だからな」

「家庭的だもんね晶ちゃん」

「そうだな」

しょうが焼きに手を伸ばしかけた陽毬の手が止まって、何かを考えるように瞳を閉じた。

「どうした?」

「うん、さっきの本あったでしょ?確か…あれに今日の日付がかかれてたの」

「なんかの記念日とか?」

「うん、女神の日」

「女神の日?聞いたことねぇーな」

止まっていたはしを動かして、

しょうが焼きを口まで持っていくと、ぱくっと、食べた。

その動作を冠葉は見ながら、陽毬の話の続きを待った。

「女神の日は女神と巡り会う日なの、ひょっとしたらさっき出ていった晶ちゃんは今日女神と会っちゃうかも!」

「まさかっ」

笑い声をたてた冠葉に陽毬は鋭い目線を送ると、

スネたように続きを話した。

「でも…運命の女神には絶対会っちゃいけないんだって」

「はぁ?なんで?」

「その続きは読んでないの」

そう陽毬は言うと、またしょうが焼きに手を伸ばした。
















「ああぁー間に合ってよかった」

これで今週は結構高価な料理を陽毬にふるまえるな。

もうすっかり暗くなった帰り道を買い物袋を持って、歩く。

「綺麗な星だなぁー」

夜空に光る無数の星たちはすごく綺麗に見えた。

道の角を曲がると、すぐ視界に入ってきた者。

…誰、

道の真ん中に誰か立っている。

危ないなぁ…、

「ちょっと、君、危ない…よ……、」

初めてだった。

目があった瞬間。

心臓が止まった気がした、

銀髪の肩ぐらいまである軽くカールがかかった髪に、
真紅の瞳の中の金色の光。


体の血が逆流しだしたかのように、


全身の細胞が組み替えられていくかのように


胸から、何かが溢れる音がした。














"運命の女神に絶対にあってはいけない。


会った者は皆、


女神に恋をする"












     

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