運命の女神 | ナノ

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「遅かったね、せっかく面白い舞台を用意したのに見逃してしまったよ?」

ビルのエレベーターから降りてきた多蕗は目の前に姿を現した時籠ゆり。

「私を利用したわね」

「都合が良かったからね」

「まさか貴方がこんなことをするなんて」

「君こそ二人を呼び出して何をするつもりだったんだい?」

二人の表情は微かに笑みを帯びていた、

もうすっかり夕日の落ちたビルの外、多蕗はゆっくりとゆりに近づいた。

「所詮僕らは偽の家族でしかない、お互いを利用するだけの」

そう放った瞬間、ゆりは多蕗の頬を叩いていた。

「さよなら」

荒く息を吐くゆりの隣を多蕗はゆっくりと通り過ぎた。







「苦しまないでね…か、」

僕の手は、もうピアノが弾けない手になっていた。

―あの子にもうピアノを聞いてもらえない

―時間も止められない

僕は世界から透明な存在になるはずだった、僕の生きている意味なんかなかったから。

それを、桃果が助けてくれたんだ。

自分の手を犠牲にして、僕を、必要としてくれた。

脳内ではあの子の顔がちらついて、僕を締め付けたけれど、

桃果は笑っていた。僕と一緒に笑いあってくれた。

「あの子を、嫌いにならないでね」

桃果はあの子を知っていた。あの子ことを、大切にしていた。

運命の女神、彼女の正体を知ったのはずっとずっと先だった。

桃果は何も教えてはくれなかったけれど、なんとなく分かったんだ

あの時、あの子は僕のピアノをちゃんと聞いていてくれていたと思うから

あの時、あの子は僕を助けようとしてくれたんだと

僕がバカなせいで、僕は自分の運命を変えられなかったんだ



“だからね、これ以上…苦しまないでね”




この言葉は、全てに終止符をつけたかのような言葉だった。

桃果、

残された僕たちには、何ができる…?

あの子を救うには、何ができる…?





 

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