曖昧 | ナノ

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朱雀に戻ってきた私はクイーンの鋭い目線に困っていた。

「NO NAME、本当に戦い方を忘れたのですか?」

「いや、ん…うー…ん…あはははっ」

クイーンの言葉になんだからもろに答えられない。

あの後、ナインやキングの後ろにくっついているだけだった私をエースが引っ張りだし

クイーンの前に出されると歪んだ表情でそう聞かれた。

覚えてないものはしょうがない。

一番戦闘力があったっていうのも知らないし、

「マザーの所に連れて行った方がいいんじゃないか?」

セブンの言葉に本当に私は行ったほうがいいんじゃないかと思う。

でもなんか不信に思われないかなぁ…。

賛成の声をあげようとした時、肩にぽんと手が置かれた。

なじみのない手の感覚にゆっくりと後ろを振り向けば、心臓が止まるかと思うぐらいの

衝撃と、暖かくなる胸の鼓動。

「クラサメ士官」

いつもより近い距離のクラサメさんは私の顔を見ると、瞳を細めて息を吐いた。

「来い」

なんだかあっさりと吐かれた言葉に呆然としていると、ため息と同時に腕を掴むクラサメさん。

ぐい、っと引っ張られれば自然と足は動いて前に進み出した。

そして視界を移したのはいつも見守ってきた大きな背中。

「(何この状況?!最高!!!!腕掴まれてるし!!!)」

色々なことで思考がぐるぐると回っていると腕をつかんでいた手は離された。

残念だと思う自分がいるのはしょうがないが、

たどり着いた場所に自分の顔を歪めてしまう。

「やぁクラサメ君!と…来てくれたんだねNO NAME君!!」

たどり着いた部屋から顔を覗かせて目があった人物は、

知っている人だった。いや実際に会ったことはないが…

ゲーム画面で見ていた人。

「カヅサ……?」

「そうだよ!僕!君のほうからここに来てくれるとはね」

明るかった顔は一瞬でただならぬ表情に変わったとたん後ずさる自分の足。

それと同時にカヅサと自分の間に割り込んできたクラサメさんはカヅサを睨みつけた、

「おい、NO NAMEに薬を盛ったか?」

その言葉に口元を釣り上げたカヅサにクラサメさんは大きく息を吐いた。

それになんの話だ、と首を傾げる私は空気が読めないのだろうか。

「バレちゃったか、やっぱり副作用があったんだね」

「なんの話?!」

「覚えてないか、君に薬を飲ませたんだよ。僕の特性の新薬、それの副作用で覚えていないことがあるみたいだね」

ちょっと待てよ。お前なんでそんなにニコニコなんだよ!!!

「記憶は元に戻らないの?!」

「まぁ時間がたてば…」

「どれくらい?!」

「いやぁーどうかなぁ」

いい加減なカヅサに怒りが爆発しそうになったのだが、

それを愛しい声が止めた。それにクラサメさんを見上げればなんだかいつもと違う表情で見下ろされた。

それに不覚にも胸が高まった、いつもドキドキしているけど

今日はまた新しいドキドキ。

「カヅサ……」

「分かってるって、記憶意外は何もないはずだから」

なんだか身体が熱くてクラサメさんとカヅサの会話をよく覚えてない。

視界がぼやけてきた…

熱い、熱い……

「NO NAME?」

クラサメさん…。




ぼんやりと私を呼ぶ声がする。何度も、何度も。


『この薬は?』

『何もかも忘れられる薬』

『本当に?』

『本当だよ』

頬を緩めたカヅサの顔を見つめるのは私。

ただその薬が欲しくて、早く飲みたくて一心に手を伸ばせば、

ふいと薬に逃げられた。その薬を動かしたカヅサを睨みつければ、

怪しい笑みが帰ってきた。

伸ばした腕を取られれば、ゆっくりと近づいた彼の顔。

囁かれた言葉は鮮明に耳に残っている。





『その代わり僕を愛してくれる?』



それは余りにも奇妙で不可思議な意味を持った言葉に聞こえた。




     

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