私 | ナノ
23011/4
「・・・ねえ、どうして泣いてるの?」
前の前で視界にうつる彼の瞳からは涙が溢れていて、それはゆっくりと頬を伝わると、
私の頬に落ちた。冷たい、と瞳を細めれば彼の手が頬に触れた。
「・・・・・・私、みんなを救えたかな」
「皆無事だ、朱雀の勝利だ」
その言葉を聞いて小さく微笑んだ。体から力が抜けて、もう立つことも叶わない。
力なく笑うことが今の自分の精一杯であって、それ以上何もできない。
皆が助かったときいて、安心する心があった。
「私ね、もう朱雀とか、クリスタルとかどうでもいい」
彼の瞳が細まると、また私の頬を優しく撫でる。その温かい手が心地よくて、なんだか眠ってしまいそうになる。
「皆に、幸せになってほしい…使命とか、全部捨てて」
自由な世界に、みんな幸せな世界に。
そうなることは難しいけれど、いつかそうなってほしいから。彼には笑っていて欲しいから。
いなくなってしまった人をいつまでも想い続けたいから。
「死ぬな、NO NAME」
声を絞り出すように吐かれたクラサメの声に、小さく瞳を見開いた。
私は死ぬのだろうか。もう動かない体と力が入らない腕、それは私に対する死を意味するのだろうか。
自分の中に残っている力はほとんどない、おぞましいほどの魔力の感覚も何も感じられない、見えるのは彼の泣き顔と、小さな声。
「・・・貴方は勝手に決めたくせに」
行ってしまうと、約束はしないと。
でもそれを止められなかった私はもっとバカで、臆病で、ああ・・・なんてことだ。
彼と一緒にこれから過ごせないなんて、彼と笑い合うことも、彼と体温を確かめ合うこともできないなんて。
「君だけの記憶は絶対に忘れたくないんだ」
とぎれとぎれの彼の声と、溢れてくる涙が、すごく痛い。心が痛い。なんで、なんで・・・私はこんな運命の中にいるの。
もう走って逃げ出すことも、戦うこともできないじゃないか。
だって足が動かないんだもん、だってもう力が残ってないんだもん。
ああ、そうか・・・これが、最後なんだね、嘘だ。納得なんかいかない、どうして・・・
「私はもっと生きていきたいのに・・・なんで、どうして・・・っ」
うっすらと視界がぼやけてきて、彼の泣き顔もよく見えない、だんだんと暗くなっていく視界に落ちてくる瞼、必死に聞こえる彼の声に答えようとしても唇が動かない。
石みたいに固くなった唇、そして体の中心から力が抜けていくような気がした。
息ができない、助けて、助けて
いつのまにか湖の下へと落ちていく自分の身体、あがいてもあがいても重くて上がれそうにない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。助けてよ、なんで・・・死ななければいけないの
瞳を閉じかけ時、自分の腕に誰かの手が触れた、その手は私の腕をしっかりと掴むと一気に湖の外まで引き上げる。
閉じかけた瞳の中、一瞬見えたのは私と同じ色素の薄い緑色の髪。
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