私 | ナノ

もう思い出せない誰か
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「あら、NO NAMEどうしたの?」

ベットで横になって視界を毛布で覆う私にエミナの声が心配そうに響いた。

それに覆われていた毛布をバサっと取り上げると、イスに座っているエミナを見上げる

目が合うとにっこりと笑ったエミナに息を吐いて体を起こした。

「何かあったの?チョコボに蹴られたとか」

「……違うよ」

冗談交じりで言ったエミナの問いに真面目に返してしまった。

いつもなら笑って流れる会話がなんだか今日は息苦しい。

「エミナ、」

「うん」

深呼吸してエミナの名前を呼ぶといつものように優しく返したエミナに微笑んだ。

「私はどこに行けばいいんだろう」

ふと呟くように吐いた言葉はエミナの表情を変えさせた、

思い出すのは、あの少年との会話。

「…NO NAME?」

「ごめん、やっぱりなんでもない、もうちょっと寝るね」

それに心配そうな顔をしたエミナだったが、微笑むと部屋から出ていった。

それを見送ると、再度布団に潜り込んで毛布で視界を覆った。

自分で自覚しているはずだった。

私はどこへも行けない。

行ってはいけない。留まらなくてはいけない。

前に進んでは、いけない……。

分かっていたはずのことなのに、あの少年から言われたあの言葉が

胸に何度も響いて体を、視界を揺らがせる。

認めていたことを反発させたくなってしまう、

我慢していたことをが破裂するみたいに。何かが壊れそうになる。


「NO NAME」

「マザー?」

「ごめんなさいね眠っていた?」

「ううん、大丈夫だよ」

部屋に入ってきたマザーに小指のリングを見せるように手を差しのばすと

マザーはそれに触れた。その瞬間に燃えるような赤い光が放たれる。

これもいつもの定期検診と同じだが、その光はなんだか美しい。

「この石って…」

「あら?知らなかったの、これはクリスタルが貴方に与えた加護の石」

どうりで何かを感じるわけだが、"加護の石"というものにひっかかる。

この石は特にそのような力を見せたわけでもなく、

ただ私を支配し、閉じ込めることのできる力を持った石だということは

私にだってわかる。

その証拠にマザーが触れると私の行動データがわかるようになっているし。

「どうかしたの?」

「ううん…。」

「そういえば、彼は今日は来たかしら」

彼、というのはクラサメのことだろうと確信すると、

ゆっくりと首を横に降った。それにマザーは微笑むと私の頬に手を添えた。

優しく暖かいの手で撫でられると心地よいし安心するはずだったが、

なんだか物足りない。

「訓練は必ず止めにさせるから安心して」

そう言って部屋を出ていったマザー。

訓練の中止。

今はマザーの意思で止めになっているけれど、上はそうはいかないだろうとエミナから聞いた。

訓練が中止したら、私は何をすればいい。どうすればいい。

そしたら外へいく許可ももらえなくなる。元々闘うことが条件だったのに。

静まり返る暗い部屋の中、一人、瞳を閉じた。



   

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