私 | ナノ

行きどころのない手紙
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今月も時間が仕事の空いた日には、魔導局へと足を運ばせる。

門の前に立っている兵も、もうすっかり顔馴染みだ、

そしていつものように俺を見て、ため息をこぼす、

それで困った顔をして、言われなれたことを言い続ける。

「お願いだから、妹に会わせてくれ」

「何度も言っているが、それはできない」

「じゃあせめて手紙だけでも、」

ポケットに忍ばせていたたくさんの想いが込められた手紙を差し出せば、

兵の片手がゆっくりと上がった。

それは受け入れる拳ではなかった、手のひらは固く開かれ、

手紙を押し返した。

兵の言いたいことは分かっている、でもなんとか手紙だけは受け取ってほしかった。

だが、その願いも無意味に砕け落ちてしまうだろう、

「貴方ももう分かっているでしょう、あの子にはもう…会えないよ」

他の兵に聞かれないように、顔なじみの兵は俺の耳元で小さく呟いた。

受け入れたくない言葉だった、

兵の低くい声を反発したくても、なんだか身体から力が抜けてしまったように

瞼がゆっくりと下がってくる。

だが、閉じられかけた瞼を押し上げる何かが湧き上がってくると、

また力強く瞳を開いた。


「…俺は、諦めません。」


兵のため息が聞こえてくると思ったが、違う声が聞こえた。

それは門の中から発せられた声だった、


「……その人を中へ」

「ですが、」

「問題ない」

「分かりました」


門の前に立つ兵がすっと横に動いて、頷いた。

「どうぞ」

それに少し戸惑ったが、門の中に歩み寄った。

そこには先ほど声を発した人物が立っていた、同じ歳ぐらいの深い青色の髪のマスクをした男。

服からして、魔導院の指揮官を想像させた。

目が合うと、頭を下に下げる。

「…ありがとうございます。」

「いや、私は貴方の願いを叶えられそうにない」

上から聞こえた言葉が、また何かを押し下げるように体を震わした。

「……じゃあ、なんで俺を中に」

それに目の前の男は少し瞳を細めた。

ここではしにくい話のようだったので、誘導されるまま魔導局の中を歩いた。

誘導されたのは魔導院の魔方陣だった、


「どこへ?」

「…チョコボ、牧場へ」

「なぜ…?」

「話すことは無理だが…」

顔を見るだけなら、と言った男の言葉が、肩の荷を一気に軽くさせたようだった。

今まで断られ続けていた面会、までとはいかないが、あいつの姿を見せてくれる、

手紙さえも許されないのに、そんなことは可能じゃないだろう。

だからきっとこれが最後なんだ、そう思った。

もう門の中には入れてもらえないし、兵にもすぐに追い返されるだろう。

牧場でさえも立ち入りを禁じられる。


それでもいい…

ひと目だけでも、あいつの顔がみたい。



「あんたは、優しいんだな…名前は?」

「クラサメ…NO NAMEの監視役だ」

チョコボ牧場へとつくと、前を歩きだしたクラサメにゆっくりと付いていく。

「勝手にこんなことしてもいいのか?」

「いや……良い、とは言えないな」

「そうだよな」

じゃあ、なぜここまでする?俺のことを同情でもしたのか、

それでもいい、妹の顔が見れれば。

急に止まったクラサメの後ろから顔をのぞかせれば、遠くにチョコボが数頭いるのがわかる。

「…NO NAME…っ」

チョコボを撫でながら穏やかな表情を浮かべているあいつの姿があった。

懐かしい感情が湧き上がってくる、今すぐ抱きしめて、確認したい。

そんな衝動が走るが、そんなことは許されないだろう。

成長したNO NAMEの姿は誰かに似ていたような気がした。


「…多分、母親似なんだろうな……」

もう思い出せない母だったが、なんだか暖かい感情が残っている。

あいつは覚えているだろうか、記憶はなくても、身体が…。

自然と緩んだ頬、こんなに穏やかに笑えるのは今日だけかもしれない。

「貴方にもよく似ている」

「そうか?」

「…あぁ」

クラサメの言葉に少しだけ笑うと、そういえば髪の色が一緒だと、改めて思う。

色素の薄い緑色の髪は俺も同じだった。

それになんだか嬉しくなる、共通点がある、あいつと俺は家族だ。

繋がりが嘘にならないように、ずっとあるように。


だが、俺があいつと面会できない理由も心の隅には分かっていた。

だが、これも受け入れられない答えだ、本当ではないと、、

そう思いたい。


「なぁ…あいつは俺のこと、覚えてるだろ……?」

空気が重くなった、クラサメの瞳は細まると、なんだが切な気にこちらに視線は向いた。

「あの事件後、忘れられる死者の記憶と一緒に家族の記憶も消去するようにと、魔法局から決定がくだされた。」

沈黙した空気に響いた答えは残酷だった、

少しは予想していた答えだったはずなのに、脱力した心と身体がそこにある。

でもやはりその体を動かそうとする気持ちもある。

そうだ、俺はあの時覚悟したはずだ。




俺だけはあいつが家族であった証を忘れないと


あの時、ボロボロになって会いに来てくれたNO NAMEを信じて。

















     

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