私 | ナノ

朱い彼
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「今日はチョコボをみるだけだ、わかったか?」
「うんっ」

私を外に出す、檻から出してくれる。
待ち焦がれた答えだったはずだったが、

身体も心もすっかり冷え切っていた。

その魔導局は私に戦う力をつけろ、そう言っている。

今まで恐れて扉を開かなかった力。

魔法。

色々からわまる思考を一気に違うものに変えたクラサメの言葉。

”チョコボに会いに行っていい“

それがなんだか嬉しかった。
もう触れても問題ないんだ、
堂々とチョコボを撫でられる。

「気をつけろよ」

「またね」

クラサメが魔法陣で移動すると、
さっそくチョコボの姿が見える所に足を進めた。
人の目につかない時間でとクラサメに言われたので、辺りはすっかり暗くなっていた。

久しぶりの外の景色に、安心感と
寒気が同時に湧き上がった。



そうだ…確かここに来たんだ…昔。

「クェッ!」

チョコボの声だ、
そこに放たれていたチョコボは一斉にこちらに向いた。

「ぁ……」

少しおどけて、一歩後ろに下がると、後ろからわきにクチバシをこすりつけるチョコボが一頭いた。

「貴方は懐いてくれる?」

「ク
ェッ!」

自然と頬が緩んだ、
頭を撫でてやると気持ちよさそうに瞳を閉じた。
「君は…」

「!」

気がつかなかった、
目の前には人が立っていた。

青年だった、魔導院の制服…

こんな時間に……

「こんな時間にチョコボを見に来たの?」

小さく、少し強めに放たれてしまった言葉。

慣れない人は苦手だった
しかも同じ歳ぐらいの人なんて話したこともない
「…そうだよ、君だって」
彼もまた警戒するように放たれた言葉だった。

「そ、う…」

何だか虚しくなった。
この青年の気分を損ねただろうか、

「…チョコボ好きな人、珍しいね」

「え、うん…」

そう言って彼は近くのチョコボを撫でた。

彼がなでるチョコボは気持ちよさそうに瞳を閉じた、
彼もまた、穏やかに瞳を細めた。

見たことのない、人の表情だった。

お穏やかなのに、切なさが混じっている瞳だ、

プラチナブロンドの髪がなびくと、

視線はこちらに向いた。

青い瞳が、月の光で輝いたような気がした。

「……僕、何か変なことしてる?」

「…違う、綺麗な瞳をしてるから」

よく考えたら、

私は変な人なんじゃないだろうか。

印象を悪くしておいて、いきなり相手を褒めるなんて。

ああ、やっぱり外の人には慣れない。

「……君、朱雀兵じゃないよね」

小さく呟かれた言葉だったが、はっきりと耳に入ってきた。

怪しまれた、

どう説明しようかな。

本当のことなんて言えないし。

「うん、そうだよ」

「……この牧場の職員でも、ない」

彼のプラチナブロンドがまた揺れると、

気づいたら私の首元にカードが突き出されていた。

「君は、何者だ」

さっきまでの表情が一変して、

険しくなっていた。

「そのカード…で、私を殺すの?」

それはきっと朱雀の魔法。

クリスタルの、魔法。

「…君の答え次第だ。」

険しい表情だけど、

綺麗な瞳は同じだった。

それに、なんだか頬が緩んだ、

笑った私に瞳を細めた彼、

「魔法で私を殺せない。」

それに目を見開いた彼の、突き出されているカードを持った手を掴むと。

彼の体を引き寄せた。

「なにを…っ、」

バランスを崩した彼の頬に自らの唇を寄せた。

そのまま、彼の横を通り過ぎて、

来た道を辿るように、歩いた。

彼の殺気は感じなかった、



きっと彼は優しい人だ。


     

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