私 | ナノ
23033/4
あの日から、どれくらい時間がたったのだろう。死んだと思われた私が息を吹き返してから・・・、たくさんの時が過ぎた。回復しようとしている国を見届けられる時がくるとは思わなかった。
ガチャリと音をたてて扉が開くと、同時に愛しい彼の姿が見える。
「おかえり」
近づいてきて、彼の瞳が細まれば笑みを浮かべた。
「・・・ただいま」
ぎゅう、と抱きしめるその腕の力は緩くて、前ほど力は強くない。彼の視線が下がると椅子に座っている私を見上げるように腰を下げる、差し出した手は私の膨らんだお腹にふれた。鼓動を確かめるように、愛しそうに笑顔を浮かべる彼の表情に、心から幸せになれる。
「・・・・・・もうすぐ、顔が見れる」
「そうだね、早く会いたいんだぁ・・・」
この子がお腹にいると、小さな命があると彼に伝えた時、彼は泣いていた。“こんなに幸せなことはない”
そう言って、涙を流して、私を抱きしめて“ありがとう”と何度も、言った。
それだけで泣きそうになった、泣かないでよ。笑って、新しい命がここにいあるよ。二人の、大切な、大切な命が。
そして彼は言った、“絶対に、君とこの子を守ってみせる”と、そしてまた愛おしそうに笑った。
「・・・ねぇクラサメ、私わかったような気がする」
「・・・命を助けてくれた、人か?」
小さく頷いた。あの時、私を湖から引き上げてくれた人、思い出すだけで胸がきゅう、と苦しくなったけれど、大丈夫。泣かないから。
「・・・この髪と同じ髪を持つ人なんて・・・一人しかないよね」
クラサメは目を見開くと、そうだな、と囁く。
私の兄であろう。取り戻した記憶のはずなのに、どうしてだろうねすごく懐かしいよ。
死者の記憶が消えないようになってから月日がたった、私は兄を覚えている。きっとどこかで生きている、そう、信じたいんだ。
「彼は会いたがってた」
「私もだよ・・・でも、大丈夫また会えるよ」
全部、戻ってきた記憶、忘れてたはずの大事な記憶。
あの時、生きて帰ってくると言ったイザナ
私を前に進むと決めたエース
この先何があっても絶対に忘れないよ、だってまた会えるから
離れ離れになってもきっとどこかで、会えるから
自分で歩いて、会いにいくよ
だから、笑っていてね
私も進もうと決められたんだよ
END
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