私 | ナノ

もう思い出せない誰か
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“NO NAME、何か悩んでいるようだったけど”

さっき声をかけられ、エミナの口から聞かされた言葉。

多忙で部屋に行けない、そうエミナには言っていたがもう一週間になる。

毎日、毎日彼女のもとへ足を運んではただ彼女を眺めてきた。

得に話をするわけでもなく、ただ一緒にいた。

一緒にいるだけで彼女との距離が少しずつ近づいていくような気がして。

「…、」

NO NAMEの部屋には入れないドンペリの頭をそっと撫でるとNO NAMEの部屋へと足を運ばせた。

厳重にロックされた部屋のドアを開けると、

部屋を見渡した。だがそこには人の気配はなく、空っぽののベッドだけがある。

牧場へ行ったか。

そう思うと同時に魔方陣へとやってくれば、牧場に向かった。




―――







「サン、」

小さくそう呟いただけなのにチョコボの群れの中から一頭だけこちらにゆっくりと歩み寄ってくるチョコボがいた。

それは紛れもないサンで、頭をすり寄せてくる。

「会いにきたよ…」

サンと共に地面に腰掛ければ、ゴロリと横たわった。

「う、わぁ……」

視界に広がったのは無数の星たち、闇の中で輝く星たちは輝いていて

瞬きする余裕させもなくなっていた。

でも聞こえた人の足音に起き上がれば、そこには少年の姿があった。

朱いマントの少年。

「…やぁ」

「こんばんは」

それに小さく笑った少年は隣に座る。

私はまたゴロリと寝っ転がると、ふいに少年の声が聞こえた。

「…この前は、ごめん」

予想していなかった言葉に瞳を瞬きさせた。

寝っ転がる私の視界からは彼の後ろ姿しか見えない、だがなんだか身体に響く声に体を起き上がらせた。

その謝罪はこの前の会話のこと。

「本当のことでしょう?」

そう、本当のこと。少年は間違ってなんかいない。

「……君は傷ついた」

その言葉に顔を上げると、目があった。

綺麗な瞳がいつもよりはっきり見える。切な気に細められたその瞳が、

胸を突き動かす。

「……大丈夫、だよ…慣れっこだから」

とぎれとぎれな言葉だが、必死に出した言葉だった。

「じゃあ、」

視界が暗くなったと思った瞬間、自分は暖かい感覚に包まれていた。

「じゃあなんであんな顔、するんだ」

抱きしめられている、少年の腕にすっぽり入った自分の体を強く抱きしめられた。

耳に息がかかって、熱い。


「僕が、君を傷つけた」

「…私だって、貴方を傷つけたかもしれない」

私は自分勝手な言葉をぶつけたかもしれない。

自分の運命を再度確認された気がして、腹が、たって。

「私は貴方を進まなきゃいけない人だと、決めつけた」

私は結局どちらも答えは一緒だったのかもしれない。

進むことも留まることも、関係なかったのかもしれない。

「僕はいい、進むことが正しい、そう思っているから」

耳元で聞こえた声に瞳を閉じると、再度瞳を開けて、少年の胸板を押した。

ゆっくりと離れた体だったが、まだ距離は近い。

まだ腰に回った手は離れない。

「じゃあ、進んだ先に何があるの?」

進んだことで何かつかめる、そう思っていた自分だったが。

なんだか違うような気がしてきた。

何か知っている、以前進むことを選んだ人を、知っているような気がして。


「たどり着いた先に何があるの?」


でもその人は、私の前からいなくなってしまったようで、

消えてしまったようで、もう何もわからなくなる。

ただ、暖かい何かが残ってるだけ、それは余計に自分を苦しめる。

もう思い出せない、誰かの温もり

   

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