私 | ナノ

それぞれの道
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「お、今日は早く終わったな」

「今日はゆっくりするといい、」

クラサメ隊長の言葉でみんなは頬を緩ませた。

さ迷った気持ちをハッキリさせたい衝動に駆られて、足を進める。

向かうのはあの牧場。

「…」

「どうしたんですか、隊長?」




―――




牧場に着くと、あの子がいつもチョコボと触れ合っている場所に足を進ませた。

そこにはあの子はいるだろうか、

いなくてもいい、そんな考えは等に忘れてしまったかのように必死にあの子を探している自分がいた。

視線を上げた瞬間目に入った色素が薄い緑色の髪、その姿を確認したと同時に

胸が高鳴るのを感じた。


「サン…」

サン、そうチョコボに向かって呟いた彼女、

それはチョコボの名前だろうか、ひどく悲しげに呟かれたような気がする。

なんだか重たい彼女の表情に思わず足を早めた。


「それはチョコボの名前?」


後ろから自然にかけられた声は彼女に届いた。

振りかえった彼女は前と何一つ変わらなかった、一瞬どろいたように瞳を開いて

小さく口元が動いた。

「そう、だよ」

小さく笑った彼女、それに瞳を一回閉じて、彼女の隣に腰を下ろした。

「……君がつけたの?」

「うん、」

チョコボを撫でながら瞳を閉じた彼女を見つめていると、ふいに瞳を開けて目が合う。

「変?」

「変じゃないけど……君はなんだか切なそうだよ、」

さっきから閉じられる瞳や、小さく動く唇がなんだか前より切なくて。

鎖骨のしたらへんが小さく疼く、


「切ない…か、うん…なんだか変なの」

自分で良い、と思ってつけた名前がなんだか悲しい。

そう言った彼女の言葉がひどく自分の心を揺らがせたようだった。

「なら…名前を変えたら?」

そんなに辛いのならいっそ別の名前にすればいい、

そう思った矢先、彼女は小さく首をふった。

「なぜ、」

「だってなんだか忘れたくない悲しさだから」

悲しみを忘れたくない、そんなことを聞くのは初めてだ。

「それじゃあ前に進めないよ、」

「それでもいいよ」

いつまでもそれに囚われていたら、前には進めない。

何もできない、とどまるだけだ。

「私は…どこへもたどり着けないから」

その言葉の意味が分からないわけじゃなかったが、

なんだか空回りする気持ちがあった。

「君は化身で守られる存在だ、進む必要も、何かを目指す必要も…きっとない」

そう言葉を零した自分に向けられた表情は、

胸をぎゅっと縛り付けるように、苦しかった。



「貴方には分からないでしょうね」



そう言って笑っていたのに、

どうしても胸に無数の刃が突き刺さるかのように切ない、


「それでいいんだよ、だって貴方は進まなきゃならない人だもんね」






   

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