2人が夫婦となって数ヶ月。


日が沈み、漆黒の夜空に星々が輝き始める頃。小屋から少し離れた野原に腰を降ろし、語らうことが日課になっていた。


「わぁー!今日も星が綺麗。」


まるで子供のように騒ぐかごめの姿を横目で捉える。


「けっ。いつもと同じじゃねーか。」


そんな素っ気ない返事に頬を膨らませながら犬夜叉の方へと顔を向けた。


「もう!犬夜叉ったらムードってもの知らないんだから!」


「む…むうど?う?」


聞き慣れない言葉に戸惑いながらも、かごめの発音を真似する。


「雰囲気のことよ!…でもね、同じじゃないのよ?天気によって見える星と見えない星がちゃんとあるんだから。」


そう言って立ち上がり、空に向かって両手を大きく広げた。


「こうやって手を伸ばしたら、星を掴めそうな気がしない?」


その横顔がとても綺麗だと犬夜叉は思った。


先程まで子供のように無邪気な笑顔を覗かせていたのが嘘のよう。けれど、その表情豊かな姿を見ていて飽きなかった。


出逢ってすぐ、人間嫌いだった自分が人間と旅をすることになった。けれどそれは一時的なもので、半妖である自分から自然と離れていくだろうと考えていた。昔から人間に蔑まされて生きてきたのだから…


それが当たり前なのだと。


けれど、この少女だけは違った。
自分に対して泣いたり、怒ったり、笑ったり…


慣れない態度に戸惑いを感じながらも、過去の自分には向けられたことのないものをたくさん与えてくれ、教えてくれた。


唯一信じることの出来た人間だったのかもしれない。


「どうしたの?」


視線に気づいたかごめが声をかける。


その声により我に返った。どうやら長い事物思いに耽っていたらしい。


「なんでもねぇ。」


自分も空に手を伸ばしてみると広げた指の間から星の輝きがこぼれ、一瞬目が眩む。


「あー…、それなら俺はあれが欲しい。」


そう言ってひとつの星を指さした。


かごめは犬夜叉の肩にぴったりと寄り、目線の高さを同じにすると指さす方向を見つめてその星を探した。すると触れていた肩が小刻みに揺れる。


「ふふっ。1番光ってるやつでしょ?犬夜叉らしいね。」


口元に手をあてながら笑っていた。


「な、何笑ってんでい!//おめぇーはどれがいいんだよ?」


笑われた事に恥ずかしくなり、少し赤くなった顔を背けながらぶっきらぼうに言った。


「んーとね、あれがいいな!」


今度はかごめの指さす方向を見つめると、犬夜叉が示した星に寄り添うように小さく輝く星があった。


「あのちいせぇやつか?」


「だって…犬夜叉が欲しいって言ってた星に1番近い所に居るんだもん。小さくたって、側に…居れるなら綺麗に光ってなくたって関係ないわよ。」


少し頬を赤らめてはにかんだ笑顔をこちらへと向ける。


「お、おめぇは綺麗だ!」


思わずこぼれた言葉と共にかごめの両肩を掴んでしまう。


先程1人で物思いに耽ていた内容が重なっていた。


突然の別れから3年間。
長い月日を得て再開したときの彼女はとても大人びていて、綺麗になっていた。昔のように気安く名前を呼んでもいいものかと戸惑うほどに。




「犬夜叉?///」
突然のことに驚き、大きな瞳がさらに見開いた。


「や、だから…その「あー!」


弁解をしようとすると、かごめの叫び声によって阻まれてしまう。


「い、いきなりなんだよ!」


「流れ星!お願い事しなくちゃ。」


すると両手を胸の前で組み、目を閉じる。いつも流れ星を目にすると内容は分からないが必ず祈っている。


祈り終わるとゆっくりと目をひらき、


「あの星のように犬夜叉とずっと一緒に居られますようにってお願いしたの。」


昔と変わらぬ笑顔だった。


「あとね、料理上手くなりますように。これからも星が見れますように。長生きできま…「欲張りだな。」


願い事を並べる姿が愛おしくなり後ろから抱きしめた。小柄な体は腕の中におさまってしまう。


「あはは。でも1番のお願いはね、犬夜叉がずっと幸せでありますようにって。」


「十分幸せだ。」


出逢えたことに感謝しきれない。封印を解いてくれたあの日から。
独りが寂しいということも教えてくれたのだから。


「私も犬夜叉に出逢えて幸せだよ。」


抱きしめられた腕にそっと手を添える。


「ずっと側に居させてね。」


表情は笑っているけれど、瞳は揺れていた。


避けられない別れはいつかくる。
分かっているからこそお互いそれは口には出さなかった。






「それに…綺麗って言って貰えたしね♪///」


「あ、あれは…むうどうのせいでい!///」






顔が真っ赤な犬夜叉に悪戯っぽく子供の様な笑顔を向けた。












Fin.






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