旅の途中、野宿をして休息をとっていた犬夜叉とかごめ。
焚火がパチパチと音をたてて燃えているのと同時に、すやすやと規則正しい寝息が聞こえてくる。
「最近ちゃんと休ませてやれなくてすまねぇ。」
かごめの寝顔を見つめながら呟やいた。
いつ妖怪に襲われるか分からない状況に、常に気を張って見張りをしていて自身も休む暇がなかったが、人間に比べると半分妖怪の血が流れている体にとって、疲れるということを知らなかった。
しかし、今日は頭がボーっとして何だか見張りに身が入らない。
それだけではなく、鼻もあまり利かなかった。
「朔の日でもねぇのに…どうしたんだ?」
すると、目の前の景色がグラッと揺れたと同時に意識を手放した。
…
…ぬ…しゃ
(…何か聞こえる?)
…犬夜叉!
自分の名を呼ぶ声がはっきりと聞こえ、目をゆっくりと開いた。
「…っ。」
「よかった…気がついたのね。」
暗闇の中、心配そうに瞳を揺らして自分を見つめるかごめの顔を、焚き火の炎が照らし出していた。
額にはひんやりと冷たい感触。
その感触を確かめるべく手を伸ばすと、濡れた布きれ一枚が乗せられている。
「犬夜叉熱あったのにどうして黙ってたの?ごめんね…今日何も持ってなくて…タオル代わりになるのそれしかなかったの。」
そこで初めて自分が熱があるということを知り、鼻が利かない理由も理解した。
布切れを手に取り、よく見ると、かごめの制服についていたスカーフだった。
「これ…おめぇの着物の…。」
犬夜叉の額にかごめが手を乗せると、ひんやりと冷たく、心地よい感触が体へと伝わる。
「熱上がってる…。これ温まっちゃったでしょ?川で冷やしてくるから待ってて。」
スカーフを手にし、立ち上がろうとするかごめの手を咄嗟に掴んだ。
「…かごめの手の方が…冷たくて気持ちいい。」
自然と口からこぼれる言葉。
「だから、行くな。」
熱のせいだと犬夜叉は思った。
引き止められたかごめは優しく微笑みながら手を握り返す。
「今日の犬夜叉は甘えん坊だね///」
「うるせー///」
「ふふっ。ほら犬夜叉!頭乗せて?」
そう言いながら正座をし、股をぽんぽんと叩いた。
「…?」
「膝枕よ。楽になるから。」
言われた通りに頭を股に乗せると、柔らかい感触と共に甘い香りに包まれ、安らいだ。
「少し楽になった?」
「あぁ…大分な。」
するとかごめは犬夜叉のお腹を軽く、一定のリズムで叩き始めた。
「こうやると安心して寝れるでしょ?」
そのリズムが懐かしく感じたのは自分が子供の頃、眠りにつけないと母親がしてくれた行為、不思議と眠りへと誘ってくれるのだった。
「ガキの頃…おふくろがやってくれた。」
「お母さんが?子供のあやし方は向こう(現代)と一緒ね。」
今は子供じゃないと反論しかけると、かごめが先に口を開いた。
「こんなときくらい甘えていいんだからね?」
(__甘える?)
甘えるという行為が分からず、かごめの顔を見つめ返す。
「お水が欲しかったら近くの川まで行くし、何か食べ物…って言っても何も持ってないんだったわ。」
肩を落として落ち込む様子を目にして笑みがこぼれる。
「なら、手握っててくんねーか?」
「手でいいの?」
「あぁ///」
犬夜叉の大きな手を優しく握り返す。
「ゆっくり眠ってね。」
満足そうに目を閉じ、しばらくすると寝息をたてた。
静かな夜。
聞こえるのは焚き火の燃える音と、犬夜叉の寝息だけ。
目線を下に向けると、安らかに眠る犬夜叉の顔。こんなに間近で見るのは滅多にないことだった。
「いつも見張りご苦労様。今日は私が守ってあげるからゆっくり休んでね。」
そう言って犬夜叉の額へと唇を落とす。
熱の温かさが心地いい。
__
夜が明け、優しい朝日が2人を包む。
「…んっ。」
犬夜叉が目を覚ますと、まだ明るさに慣れていない瞳に朝日が差し込み、目が眩む。
数回瞬きを繰り返し、慣れてきた所で目線を真上に向けた。
すると、かごめの寝顔が目に入る。
「ったく、今日はお前が守ってくれるっつってたじゃねぇか。」
犬夜叉自身、こんなに安心して眠ったことはなく、何より目覚めてからの気分が良い。
今度は目線を下に向けると、しっかりと繋がれた右手。
自ら催促してしまったことが恥ずかしくなり、かごめを起こさないように気を配りながら右手を解こうとするも、出来なかった。
「ん…起きたの?おはよー。」
眠そうな表情を覗かせながら目を覚ます。
「おー、おはよう。昨夜はおめーが守ってくれるんじゃなかったのか?」
「あはは…私に見張りは無理みたい。犬夜叉って凄いんだね。」
と笑いながら言った直後、目を見開いた。
「ね、ねぇ…それ聞こえてたの?え、ちょっと!いつまで起きてたのよ!///」
顔を真っ赤にさせ、慌てる姿が面白くなり言葉を続ける。
「かごめが俺のおでこにキ…「おすわりー!///」
「ふぎゃん!!」
途中で言霊に遮られ、地面に埋まる。
「寝たふりしてたのね!//馬鹿!」
頬を膨らませながらそっぽを向いてしまう。
「お゛い、一応…病人だぞ…。」
地面に埋まった顔をあげながら言った。
「あ、そうだ。熱は?」
手を犬夜叉の額に当てると熱さは感じられず、安堵の吐息をつく。
「治ってよかったね。」
「ったりめーだ!俺は体の造りがちげぇんだからよ。」
「もう、‘‘お前のおかげだー。ありがとう’’とか言えないの?」
「そ、それ俺の真似か?似てねぇ!」
「そっくりよ!」
しばらくお互いの顔を見つめ合い、笑い合った。
「はっくしゅ!」
すると、かごめが小さなくしゃみを一回。
「俺の風邪が移ったか;?」
「そうかもね。」
少し身震いしたかごめの姿を見逃さず、着ていた火鼠の衣の上着を脱いで頭から被せてやる。
「熱出たら今度は俺がめんどう見てやる。だから、そのときは…あ、甘えろ!///」
耳まで真っ赤にしている姿を目にして、微笑むかごめ。
「おら!もう行くぞっ!」
かごめを背に乗せ、空高く飛び上がると銀髪と黒髪が風になびいて綺麗に交わる。
2人の旅が再び始まった。
Fin.
prev next