あの人が近くに居ると分かると、私と目を合わせてくれなくなる貴方。


今、私が涙を堪えてるのも知らないのだろう。


「行って…。」


俯いた貴方にこぼれた精一杯の言葉。
顔を合わせてくれないのだから笑顔を作る必要はなかったけれど、そうしなければ色々と溢れてしまいそうだった。


「すまねぇ。」




見慣れた綺麗な銀髪と赤い衣をなびかせ、貴方は私の所から簡単に居なくなってしまう。手を伸ばしたら掴めるかもしれないと、振り返ってくれるかもしれないと期待もした。


けれども、そんな勇気はどこにもない。


冷たい空気さえも指の間をすり抜けていく。




このまま寝て全部忘れたい。


朝目覚めて1番に貴方の姿を見て安心したいけれど、身体は疲れているはずなのに、気ばかり張ってしまって寝付けそうにない。


冷え切った手に白い息を吹き掛けながら、顔をあげる。


1人で眺める月や星々が、こんなにも寂しいものだとは思わなかった。悔しいほど輝いている。


すると、流れ星が一つ。


“流れ星が流れてる間に3回お願い事すると叶うんだって”


ふと過去に口にした言葉を思い出す。


“けっ。くだらねー”


隣で願う私に対して貴方はそう言った。


「本当に、くだらな…。」


そう言いかけると視界の星々がぼやけた。願いが叶うのなら今、私は涙を流していない。


そして隣りには貴方が居る、はずだった。


自分が手を離せば、こんな惨めな思いをせずに済むのだろうか…心を毎回偽らずに済むのだろうか。


側に居るのに、時々貴方が、心が遠くなる。


側に居させて欲しいと言ったのは自分。辛いのは分かってる…つもりだった。




重たい頬を持ち上げて笑ってみたものの、虚しさだけが胸を突つく。




馬鹿らしくなり大木にもたれかかって座った。


__御神木


「あの頃と変わらず凛々しいのね。」


立派な大木を見上げて呟いた。


それは、私と貴方が出会った場所。
喧嘩をして、仲直りをして、たくさんの思い出が詰まっている。




しかし、それ以上に、


あの人と貴方が別れた場所でもあった。




「お前はあの2人を…50年前から見てきてるのよね。」


少し羨ましく思った。
どうしても埋めることの出来ないこの時間。


生まれ変わりとして、四魂の玉と共に現れた自分の役割。あの人が生き返った今、自分の必要性は?




「独りぼっち…だ。」


体を小さく丸めて呟やく。




「お、俺が居るじゃねぇか。」


自嘲の言葉に対し、後ろの茂みから声がした。


振り返ると、月明かりに照らされて輝く銀髪。息を切らせ、肩を上下に動かして息をする金色の瞳がこちらを向いていた。


「犬…夜叉。」


急いで戻ってきたのであろうか、髪には木の葉がついていた。


待ち望んだはずの彼。


自分の弱さを聞かれてしまい、今度は私が彼の顏を見ることが出来なかった。


顔を合わせようとしない私に対し、彼は目線が同じになるように隣りへ腰掛ける。


「おい、こっち向「嫌よ。」


彼の体が強張るのが分かった。


「あんただって、私の顔見ようとしてくれないじゃない。ずるい…そんなの。」


本当はおかえり、と迎えてあげたい所だったが、今はそれほど広い心は持ち合わせてはいない。


すると彼は私の両肩を掴み、向き合わせた。荒んだ心を、全て鋭い瞳に見透かされてしまいそうで怖くなった。


「俺じゃ不安か?信じられねぇか?」


_うん。と即答してしまいたかった。


しかし、彼が母親に叱られる覚悟をした少年の様な泣きそうな表情をしていたから。


(…こんな顔見たことない)


肩を掴んでいる手が微かに震えている。


「桔梗は俺の後を追って死んだ…だから死人のまま放っておくことは出来ねぇ。けど、お前に側に居て欲しい。これは俺の我儘だって分かってる。」


普段自分の気持ちを口にしない彼からこぼれた言葉。


こんなときでなければ素直になれない。
だから私は1番に聞きたかったことを口にする。


「死人だとしても、今は存在してるのよ?なら私じゃなくても…。」


私はずるい。
彼が困惑してしまうのは分かっているはずなのに。そして、その答えに怯えている。


「かごめはかごめだ。他の誰でもねぇ!」


不器用な彼なりの精一杯の言葉。
それは、不思議と心の隙間を埋めてしまうのだった。


「ふふ。」
「わ、笑うなよ。」


その真剣な眼差しが嬉しくて。


そうかと思えば顔を真っ赤にしてそっぽを向く彼が愛おしい。


私は彼に笑って欲しかった。
今まで傷ついた分、せめて私と一緒に居るときだけでも楽しんで欲しかった。




何よりも、生きて欲しい。




「そうね、ごめん。」


彼が好きだと言ってくれた笑顔を向け、髪についた木の葉をそっと取り払ってやる。
つられて少し微笑む彼の姿を見たとき、私が存在する意味が分かった気がした。


「犬夜叉、前より表情柔らかくなったよね。」


「そうか?」


そう言った後、彼は火鼠の衣を肩にかけてくれた。


この衣に、温もりに、何回助けられたのだろう。


貴方が望むならば、私はずっと側に居る。


笑顔と共に。




自分にしか出来ない方法で守ってあげたい。




空を見上げながら流れ星に手を合わせた。


「また願ってんのか?」


「今回は誓ったの。」










Fin.




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