暗闇の中、物音を立てずにひっそりと身を隠す。


上を見上げると、木の葉の間から覗く空は真っ暗だった。


刀を支える手に自然と力がこもり、カチャっと音がなる。

誰にも見つからないよう、息を潜め、目を閉じた。


早く朝が来るように、と願いながら。




「犬夜叉ー!」


すると、自身の名を呼ぶ声が聞こえ、辺りを見回す。

小さな灯りと共に、小さな姿を瞳が捉えた。


巫女装束を纏った少女。


「どこに居るのー?」


どうやら自分の姿を探しているらしい。


しばらく考え、少女の前に姿を表すことに決めた犬夜叉は地へと飛び降りた。


少女は気づいていないらしく、背を向けたまま辺りをきょろきょろと見回している。



「かごめ。」


小さな背中に声をかけると、ビクッと震えたのち、恐る恐る振り返る。


「あ…。」

安堵するような表情。
すると、目に涙を浮かべながら地に座りこんでしまった。


「お、おい!」

心配になった犬夜叉は側に駆け寄る。


「大丈夫か?」


「よかった…黙って居なくなっちゃうんだもん…。」


袖で涙を拭った。


「すまねぇ…癖が抜けなくてな。」

そう言って、立ち上がれるように手を伸ばすと、かごめは黙って握り返す。


「妖怪に襲われるより、犬夜叉が居なくなっちゃう方が私は怖い。」


背を向けられてしまい、今どんな表情をしているのか分からない。


何も言い返すことが出来ず、黙って小さな背中をただ見つめることしか出来なかった。


「家に帰ろっか。」


振り向いたその顔は、包み込むような優しい微笑み。


先程とは違い、差し出された手を握り返すのは犬夜叉だった。


「おう。」



___




家に着くと、たくさんの荷物が積まれていた。


「これどうしたんだ?」

「昼間に弥勒様が来てね、お裾分けってくれたのよ。」


半妖のときよりも鼻の利きがよくない為、中身が何なのか分からない。

大きな荷物をガサガサと漁るかごめ。

「あ、お米!それにお酒ね。」


随分と気前がよい。


「犬夜叉ってお酒飲めるの?」


突然の質問に目を丸くする。


「あんまり飲んだことはねぇけど…多分な。」


返事に対しての応答は無い代わりに、目の前に置かれたのは酒の入った瓶。


「たまには飲んでみようよ。」

器も2つ用意してあり準備がいい。


「おめーは飲めるのかよ?」


持った器に酒を次ぎながら、首を傾げていた。

「乾杯!」

かごめは自分の持つ器を、自分の持つ器に軽くあてる。


カンッという甲高い音が響いた。

「かんぱ、い?」

「現代ではね、お酒飲むとき乾杯って声かけるの。」

慣れない言葉と動作を真似して、自分もかごめの器に小さくあてる。


そして、一口流し込んだ。

甘い香りと共に、喉が熱く感じられた。

かごめも少量飲み、一言。


「…これが美味しいの?」


犬夜叉は小さく笑った。

「おめーにはまだ早いってことだな。」

「は、初めてだからよ!慣れならきっと美味しく感じるようになるもん!」


ムキになり、空になった器に再び酒を次ぐ。


犬夜叉もほろ酔い具合で、とても気分がよい。

しかし、かごめの顔は太陽の様に赤かった。


お、おい…もうやめとけよ。」


「だいりょぶ。」



呂律が回っていないだけでなく、目も少し虚ろである。


器を取り上げ、代わりに水を渡す。


「ったく、しょーがねぇ。」

かごめは水を一口含むと、犬夜叉の肩に頭を軽く乗せる。



具合が悪くなったのかと不安になり声をかけようとすると、先に口を開いたのはかごめだった。


「ねぇ、まだ人間の自分が嫌い?」


唐突な質問に戸惑う。


「な、なんだよ突然。」

「嫌い?」

「…そりゃぁな。力は無ければ、傷も癒えねぇ。」

「また朔の日が来たら、どっか行っちゃう?」


元々、完全な妖怪になりたかった自分。

半分人間の血が流れていることが恨めしかった。


人間の心や身体がどれほど脆いか知っている。


(お前を守れないかもしれない自分自身が嫌いなんだよ)


しばらく沈黙が続き、衣の袖をぎゅっと握られた。

「私は半妖の犬夜叉が好きなの。出会ったときの、この姿が。人間の姿も、妖怪の姿も含めて貴方なんだよ。どっちも欠けちゃだめなの。」

「犬夜叉居なくなったら一人ぼっちになっちゃう。」


顔は見えないけれど、泣いているのが分かる。


声が震えているから。


あのとき我慢していたものが溢れ出してゆく。


袖を握っている手に手を重ねると、酒によって火照った体温が心地よい。


「半人前の俺は、完璧などちらかにならなきゃいけねぇってずっと思ってた。こんな俺でいいのか?後悔してねぇか?」


肩で小さく頭が頷く。


「ありがとう、な。」

空いた手をかごめの頭に乗せ、くしゃくしゃと撫でると、艶のある黒髪が無造作になってしまった。

いつもなら少し頬を膨らませながら髪を直すのだが、酔っているせいなのかジッとこちらを見つめている。


先程の告白といい、愛おしくて堪らない。

かごめの頬に手を添え、唇に唇を重ねた。


突然身体に重みが加わり、かごめは自分で支えきれずにそのまま2人一緒に倒れてしまい、押し倒される形になってしまう。

「あ、悪い。」

犬夜叉は起き上がろうとすると、それを制するようにしっかりと背中に腕を回され、抱きしめられる。


頬が紅く、虚ろな瞳は潤み、酔っているからだと理解しながらも凄く艶やかな姿だった。


頭を抱え込むように抱き締めて、首筋に唇をあてる。


耳元で小さい吐息が漏れた。

首筋に愛おしさを表す印を付ける。


(酔い覚めたら怒るだろーな)


部屋に明かりを灯していた焚火が燃え尽き、2人の姿を照らすのは月明かりのみ。


酔った愛しい女が、艶やかな姿で目の前に居たら誰だって歯止めが効くわけがない。


そして、今はお互い人間なのだ。

両指を絡ませ、再び唇を重ねた。

先程とは違い、深く、深く口付ける。


絡まる音、お互いの吐息が静かな部屋に響いた。



「はっ…はぁ…苦し、い。」


唇を離すと、虚ろな目でこちらを見つめている。


「わ、悪い…でも歯止め効かねぇかも。今日は人間の体だし。」


着物がはだけ、月明かりがかごめの首筋から肩にかけて白い肌を照らしていた。

首筋を指で軽くなぞると、小さくかごめは鳴く。


そのまま首筋から手を下にずらし、膨らみへと運んだ。


触れただけで大きく鼓動を打っているのが分かる。


優しく掴むと、微かに甘い声が返ってきた。


「あ…。」


空いた片手を更に下へとずらし、袴の結び目に手を持ってゆく。

「だ、だめっ。」

「脱がなきゃ出来ないだろーが。」


「は、恥ずかしいから!///」


その言葉に対してお構いなく、いとも簡単に解いてしまった。

はだけた着物を脱がすと、2つの膨らみが露わになる。

かごめは両腕を組むようにしてそれを隠した。


しかし、犬夜叉は片手でその両腕を掴むと反抗されないよう、かごめの頭の上まで持ち上げてしまう。


「み、見ないで…。」


瞳を潤ませながら顔をそらした。


膨らみの谷間へと唇を落とす。

彼女の匂いなのか、酒の香りなのか分からないほど甘い薫りに包まれ、頭が眩んだ。


唇を離すと、そこには愛した印。


「ちょっと!痕つけたでしょ!」

「…だめだったのか?って首にもついてるけど。」


「見える所はだめって!」


かごめが話している途中だが、膨らみの先端に舌を這わせる。


突然の快楽に体がビクッと反応してしまった。

「んぁ…っ。」


「体熱いぞ。」


「お、お酒飲んだから。」


「もう酔い覚めただろ?呂律回ってるしよ。つーか、ここに痕つけたって見えねぇだろ?誰に見せるってんだよ。」

少し頬を膨らませて拗ねたように問う。


表情が子供みたいで、愛しい。



そんなことを思っていると、犬夜叉の片手が袴の中に入り込む。


足首から太ももまでを優しくなぞった。


そして、遊んでいた手はかごめの秘部へと辿りつく。


「や、そこだめっ。」

「酒のせいか?いつもより…。」


「ば、バカッ!言わなくていい!///」


蜜で溢れる場所へと指を埋めてゆく。


深くなるほどかごめの体が小さく仰け反り、鳴いた。


一度引き抜き、蜜のついた指を舐め取る。


「甘ぇ。」


深さを変えて再び指を埋めてゆく。

彼女の弱い所へ。


「あっあぁあぁあ!」

その声と共に大きく仰け反り、肩で大きく息をしていた。

「そんなに良かったのか?」

「い…いつもと、違うから。」

「いつも?」

自分の手を見つめ、彼女の言う意味を理解出来る。

半妖のときは鋭い爪をしている為、するにしても傷つけないように優しくしていた。

しかし、今は人間の姿。

普段より快楽を与えられたことが何より嬉しかった。

「ははっ。」

「なによ?///」


月の光だけを頼りにしている程の薄暗さでさえ、彼女の顔が紅いことが分かる。

「かごめ、顔真っ赤。」

「うるさい///」


目線を逸らし、強気な彼女に唇を落とした。

「そろそろいいか?」


OKサインのキスが返ってくる。


【愛おしい】という言葉以外で、この気持ちをどう表現出来るのだろう。


そんなことを考えながら、自身をゆっくりとかごめの中へと埋めてゆく。

「あっ。」

お互いに耳元で甘い吐息が漏れた。


自分の腕の中で喘ぐ彼女の姿を見つめているこの時間が、何より幸せで、切なくて。


艶のある黒髪が絡み合うこの瞬間が。


「…好きだっ。」


朔の夜が続けばいいと、こんなに願ったことはない。








___


「んっ…。」

「よぉ、目覚めたか?」

声のする方へ目を向けると、彼の姿は半妖に戻っていた。

朝日をうけて。銀色の髪がキラキラと輝いている。


「おはよ。」

昨夜の姿のまま寝てしまった為、かごめに火鼠の衣をかけておいた。

体を隠すように、それを握りしめながらはにかむように微笑んでいる。


「あのよ。」

「ん?」


「人間の姿もいいもんだなって、昨夜思った。」


その理由が分からず、ただ呆然と犬夜叉を見つめ返すだけだった。


「半妖のときは爪削るからな。」



意地悪く笑った後かごめの叫び声と、響き渡る大きな物音と共に、犬夜叉は地面に崩れ落ちる。








Fin.


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