「いっちゃん、全然変わんないじゃん」


蝉がみんみん鳴いて耳栓をしてしまいたくなるような夏、うだるような暑さの俺の部屋で、小学校のころの卒アルをじいっと見つめながら彼女が呟いた。なんだよ、それ!と俺が反抗してもさらに彼女はうちわをパタパタと扇ぎながら続ける


「おんなじ雰囲気ってか、オーラってゆうかー、市原豊です!みたいなね」
「ほめてんのか?」

「五割」


彼女は一人ひとりの顔写真で、みんな本気で笑っているのに、一人微笑もうともしていない俺を指さした。なんなんだろ、このころから俺は何事にも理由を付けてぐだぐだ考えるかわいらしくない子供だったのかな


将来の夢は一日中釣りする人、なんて書いてあるところを見れば、まわりから浮いているにも程がある。みんなサッカー選手とか、メイドとか、今口に出せば叶わないって馬鹿にされる夢なのに。だけど俺はそういう人に憧れる。俺だって野球は好きだし、プロになれるならなりてーし。俺の周りで、夢を語れる人は、尊敬っていうか、うん、すげーと思う


「あたし、卒アルにお嫁さんが夢って書いたよ」


隣でにこにこにやにやするおまえが何を言いたいかがなんとなく分かった気がした。追いうちをかけるようにおまえが「ねーいっちゃん」なんて言うもんだから


「わかってるよ」


でも正直、俺はそれでもいい。なにをするにも、こいつ以外は考えらんねえから。俺は憎たらしい笑顔を向けるこいつにでこぴんをしてやった。いったーいと大きな声を上げるもののいつも次の瞬間はけろっとしているのだ



「よろしく豊」







(おまえ呼び方)(いっちゃんはやめた!寄せ書きに女の子から豊って書いてあったんだもん)(…くだらねー)





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110814 ちせ
 title by 花洩

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