クラスでいちばん仲の良い友達からお祭りに誘われたのはつい1週間前のことだった。そのお祭りはわたしの家の最寄り駅から電車に揺られて5駅、そこから少し歩いたところで催されるらしい。そのお祭りにわたしはこれまで一度も行ったことがなかったので、張り切ってこの前買った浴衣を着て、髪をゆるゆると巻いて、いつもよりも濃いめのメイクをしてみた。もしかしたらこのお祭りは時期的に今年最後に参加するお祭りになるかもしれない。履き慣れない下駄で少し痛む足すらもわたしをどきどきさせるのには良い材料だ


電車に乗ってお祭り会場に着くころにはすでに日は落ちて辺りは薄暗くなっていた。そこは意外と緑が多いところで蛙がゲコゲコと唸るように鳴いている。友達からのメールには「祭りから少し外れたちっちゃい神社で待っててね」と記されてあったので、わたしはちょうど目に入った大きくて真っ赤な鳥居の下で友達を待った。神社に電灯など多くはないので、わたしの周りは蛍光灯に照らされる程度の灯りしかなかった。思ってたよりずっと人は多く、この神社にも屋台で食べ物を買ったらしい人々がたくさん集まっている。小さい子供が水ヨーヨーを割って遊んでいたり、おじいちゃんたちが集まって世間話をしていたり、高校生らしきカップルがひとつの綿飴を半分にして食べていたり。浴衣や甚平を着ている人もいれば、部屋着のような格好の人もいる。様々な人間が一度に集まってるんだなあ、なんて改めてこの空間を意識した


「(あ…懐かしいなあ)」


不意にわたしの視界に入ってきたのは、小学生くらいの男の子と女の子。男の子は小さい手で女の子の手を引き、ぱたぱたと屋台に走っていく


「(ちっちゃい頃の孝介と、わたしみたい)」



履き慣れない下駄のせいか、足に小さな痛みが襲ってきたので、わたしは遠ざかるふたりを見つめながら鳥居のもとに腰を下ろした。それにしてもなかなか友達が来ない。ここ、あのこの家の近所のはずなのに。もう約束の時間だというのに。…これは嫌な予感しかしない。どうやら昔から変わらないわたしの特技が発揮されてしまったようだ。――簡潔に言おう、わたしは迷子になってしまったのである


「、うえー、偶然」


絶望のあまり顔を伏せたわたしは、真上から聞き覚えのありすぎる声が振ってきたせいでまたすぐに顔を上げた。噂をすればってやつか、目を上げるとジャージにTシャツ姿のあいつが立っていた


「…こーすけ」


幼なじみのこーすけ君、ちいさいころ、何があってもわたしを助けてくれたヒーロー、こーすけ君。そんな孝介とわたしはなんだかんだでずっと一緒で、高校まで同じである。現在進行形。つまりこいつとは腐れ縁なのだ


「お前、どしたの。ひとりでうずくまって」
「迷子かも」

「まじか」
「まじだ」

「待ち合わせ場所どこ?」
「わかったら苦労しないわアホ」

「あーはいはいこんなアホに聞いても悩みは解決できねえからな、どうぞ他の奴に頼ってください」
「あっ違うよ嘘だよーん孝介様」

「お前は昔っから迷子にしかなれねんだからさ、ちょっとは気をつけろっつの」
「気をつけて迷子が治るならとっくにわたしは治ってます」

「そうだよな馬鹿は死んでも治んないっつーもんな」
「誰も馬鹿の話なんてしてない!」



「いーずみー!」
「おーい!」

中学生くらいから恒例の、孝介との言い合いをしていると、遠くから孝介が呼ばれる声がした。この声は浜田くんだ。小学生の頃からずっと聞いてるせいで一発でわかってしまう。あともうひとつの元気いっぱいな声はたぶん、有名人田島くんだろう。この2人がいるってことは十中八九、野球部のピッチャーの三橋くんもいる。わたしは9組じゃないけど、孝介の周りの友達くらいなら知ってるつもり



「ひ、ゃあっ」


そんなことをぼんやりと考えていたら、いきなり孝介に手を引かれて立たされ、真っ暗な神社の境内のところに連れていかれた。うわなにここ、暗い。というかわたしはなんでこんな暗がりに連れて来られてんだ。いや、孝介は友達に呼ばれてなかったか。もしかして迷子になったことわたしにばれたくない…とか?


「え、なに、どうしたの孝介、あんたも迷子なの?」
「ちげーよ」

「ちがくないじゃん浜田くんたち探してるよ」
「だからちげーって」

「さっき呼ばれてましたよー泉孝介くん」
「…〜〜ああ!!俺はいつも迷子だよ!」

「ほらねっ迷子の孝介くぅーん」
「…お前のせい」

「…………は?」


ヒュルルルル、ドーン。
一瞬辺りが明るくなる、今日、花火が上がるなんて初めて知った、その花火で照らされた孝介の顔があまりにも真っ赤で、照れくさそうに視線を外していて



「あ、こ、孝介、」
「こっち向くな」


予想外の孝介の顔を見てしまったからか、わたしの口もあんぐり開いたまま塞ぐことができず、その上孝介のほっぺの色がうつったように赤くなっていただろう


ヒュルルルル、
二度目に花火が上がったとき、わたしの目は孝介の左手によって覆われてしまった。きっとそれは不器用な孝介の精一杯の照れ隠しなんだろうな、なんて、花火が打ち上がる音を聞きながらぼんやりと思っていた。孝介の隣なら、昔からどんな場所でも素敵だったんだよって、花火が終わったら教えてあげよう。だって頼もしいヒーローの隣なんだから。…だからわたしも、ヒーローが助けに来てくれるようにいつまでも迷子になっちゃうのかもしれないなあ、なあんて、都合の良すぎる解釈だと思う?







君の隣はなんて素敵

(泉どこ行ったんだろーなー)
(なんか見つけたみたいにいきなり走り出すんだもんな)
(凄く、真剣な、顔、だった)





――――――――
110913 ちせ
君のとなり様へ提出

ちなみに友達は主人公を探して発見しますが泉と言い合いをしているのを見て空気を読んで帰りました
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -