ピコピコピコ。わたしは誰もいない屋上で、女子寮で見つけた一昔前のゲーム機をいじっていた。ひんやりとしたコンクリートの上に仰向けに寝転んで、腕を上げてゲームをプレイする。まぶしい太陽の直射日光が目に入らないように、ゲーム機で遮光しながらピコピコピコピコ。ゲームなんて、こんなん一体誰が持ってきたんだろう。出てきたキャラクターを倒して自分のレベルを上げていくだけの単純なゲーム。見つけたときはつい鼻で笑ってしまったけど、わたしは授業をさぼったときの暇潰しになるこのゲームにこっそり感謝している。授業さぼると意外と暇なんだよね。ゲーム機触るのなんて、当たり前だけど死んで以来初めてだし、飽きるまではお世話になろうと思う。ピロロロン。あ、レベルアップした
「…お前な……」
不意に屋上の入り口のドアのほうから聞き覚えのありすぎる声がした。なんだこの声は音無か。わたしは音無に目もくれずに相手キャラをボコボコにするのに専念する。音無ゲーム嫌いそーだしな。来てくれたのが藤巻とかだったら面白かったかもしんないのに。なーんて、実は音無はちゃっかりわたしの彼氏だったりするのだけど
「シカトか」
音無の声音がひんやりと冷たいものになったのをわたしが聞き逃すはずがなかった。これは音無が不機嫌な証拠。もう、察してよ。こっちはあんたに見向きもできないくらい白熱した展開を繰り広げているんだから。ピロロローン、ゲーム機からは呑気な音が聞こえてきた、武器がグレードアップしたみたい。次のステージに進める、わたしはついゲームに向かってニヤニヤしてしまった
「ひゃあっ」
一瞬、。
不意に視界いっぱいが音無、になった
どうやら寝転がっているわたしに覆い被さってきたんだと気づくのに時間はあまり必要なくて。音無はすっごくむすっとした表情でこちらをまっすぐ見つめてくる。痛いくらいの視線のせいでわたしは思わず目を逸らしてしまった。そして思わずその先に見つけてしまったのは、
「…もしかして、ゲームに嫉妬しちゃった?」
音無の左手に握られていたのはわたしがさっきまで真剣にプレイしていたゲーム機。音無に視線を戻すと、逆に視線を外されてしまった。ああ、もう!
「音無ってわたしのこと本当すきなんだね」
「ああすきだよ」
「…どしたの今日、なんかキャラ違う」
「あほ、……お前のせいだ」
降ってきたのは優しくてあったかい触れるだけのキス。離れるときに聞こえた一言はたぶん、聞き間違いなんかじゃない
(俺、本当はいつも余裕ないし)
ねえ、わたしは、音無を失っちゃうくらいなら生まれ変わりたくなんかない。音無はみんなを消してあげるために頑張っているけど、わたしは消えなくたっていい。ゲームみたいに、わたし自身としてまた生まれ変われたら良いのに。未来なんて、来世なんていらない、いらないよ。望むことはただひとつ、
いつだって僕らを占めるのがお揃いの日々でありますように
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110831 ちせ
title by 花洩