「あーもうやってらんないわよ!」
「おかえり。飲んできたの?」
「びゃくらーん」
酒臭いこの子は帰ってきていきなり僕に抱きついてきた。べろべろに酔うといつもこうだ。酔ってるときは僕に敬称を付けて呼ばないし、甘えてくるからそれはそれでいいんだけど、他の何処の馬の骨とも知れない奴らにこんな姿を見られるのはいただけない。だから飲むなって言ってるのに。
「はい、椅子に座って。今日は何飲んだの」
「やーだー離れないー」
「じゃあマシマロ食べさせるよ」
「そんな甘ったるいのいらない」
「じゃあ座って」
「むう」
少しふてくされた様子で、やっと椅子に座った。紅く染まった頬と、無意識だろう上目遣いが僕を攻めてくる。
「何飲んだの」
「ビールとカクテル三杯とワイン…一本?」
「飲み過ぎ」
はあ、と一つ溜め息をついて、グラスに並々水を注ぐ。そのグラスを受け取って、何も言わないでも飲み干した。これが習慣になってきてるからだ。僕はここの主人じゃないのに何でこんなことしてるんだ、全く。
「もう寝る」
「ちょっと待って。化粧は?」
「いい」
「駄目。肌荒れとか許さない」
勿論これも僕の為。どうせだったらすべすべの肌のがいいし、僕が甘えたい時にほっぺすりすり出来ないの、嫌なんだよね。ポーチからいつも使ってるメイク落としシートを取り出して彼女の顔に滑らせる。こんな時でもされるがまま。もしこのまま帰って来ずにその辺の男に捕まったら…なんて考え始めたら悪寒が走る。
「ちょっと、白蘭痛い」
「悪いのはそっちだろ」
僕の怒ってる理由がわからない、とでも言うように、彼女は困った顔をする。外でお酒飲む君が悪いのに。
「おやすみ〜」
「まだ駄目だって。服着替えてないでしょ。はいこれパジャマ。着替えれなかったら僕が着替えさせるけど?」
「ん」
「…え、本当に?」
「うん。何もしないでね」
好きな女が目の前にいて、しかも自分が着替えさせるのに、欲情しない方がおかしい。なんてそんな無理なお願い。でも、疲れ切っている彼女にこれ以上酷なことはしたくないという理性が勝って、お姫様抱っこで、広くなったベッドに寝かせた。
辛いことがあるなら僕に言えばいいのに。
天日干しの彼女
written by Aoko