記憶の彼方
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14章
「シーモア老師の召喚獣、すごかったな……」
ワッカがチームメイトとの別れを終え、これから旅を再開しようとユウナの所に戻ってきた。
これからはガードに専念すると言う。
優勝出来たんだ、恐らく心残りはないだろう。
ユウナはシーモア老師の召喚獣の感想を言っていた。
すごい……けれどどこか闇を持ったような……悲しそうな召喚獣。
『哀しいのはこの子……シーモアよ』
あの言葉が頭から離れない。
シーモア老師が哀しい……?
何かあったのだろうか……
シーモア老師の過去を詮索するなんて恐れ多い。
だけど、召喚獣と話せる私だからこそ何か出来るんじゃないだろうか。
今考えたって何も出てこないけれど。
頭の中で悶々と考えていると、もう既に見慣れた金髪の頭とまだ見る度に緊張してしまう紅い人がこちらに歩いてくるのが見えた。
「あれ?アーロンさんも」
アーロンさんはそのままどこかへ行ってしまうと思っていた私達は、ティーダと一緒に歩いてくるのに多少なりとも驚いた。
そしてアーロンさんの言葉に更に驚く。
「今この時よりお前のガードをつとめたい」
「えっ?」
「マジですか!?」
思ってもいなかったアーロンさんの申し出に、ユウナだけでなく周りの者達もざわつく。
伝説のガードが同行してくれるなんて百人力だ。
「不都合か」
「いいえ!ね、皆いいよね?」
不都合なんてあるわけない。
むしろすごく嬉しい。
私の過去を少しでも知っている人。
一緒にいれば何か思い出せるかもしれない。
そんなことを考えていた。
「アーロンさんと御一緒出来るなんて嬉しいです」
私が微笑めばアーロンさんも少し微笑んだ……ような気がした。
(笑った?)
その表情に胸の鼓動が速くなり、目を逸らしてしまう。
「でも何故ですか?」
ルールーが聞く。
確かに、わざわざ危険な旅に付いてきてくれるなんて。
「ブラスカとの約束だ」
「父が……そんなことを……ありがとうございます!よろしくお願いします!」
やっぱりブラスカ様ってとても優しい人だ。
ユウナ、愛されてたんだな……
自分のことのように嬉しい。
「それから……こいつを連れていく」
そう言って何だか普段と様子の違うティーダを私達の前に差し出す。
「……ども、よろしく」
……いつもと違う。
「こっちはジェクトとの約束だ」
ああ、嫌いだっていう父親の話を聞いたのかな。
ってことはやっぱりユウナの言ってるジェクトさんとティーダの父親は同一人物なんだ。
「ジェクトさんはお元気なんですか?」
ティーダには悪いけどやっぱり気になった。
だってアーロンさんと一緒にブラスカ様のガードをやっていた人だもの。
だけど、返ってきたのはそっけない返事。
「……知らん、10年前に別れたきりだからな」
「そう……ですか」
残念。
アーロンさんは私達を見渡すとルールーに向かってこれからの予定を質問した。
一番歳上が私だって分かってるのに……そんなに頼りないかしら。
確かにルールーはしっかりしてるけどさ、私に聞いてみてもいいんじゃない?
ちょっとへこみました。
―――――
「それで、お前はこの10年何をしていたんだ?」
私は今、何故かアーロンさんと二人で話していた。
……いや、キマリもいるんだけど喋らないから。
「私、気がついたらお祭り騒ぎのベベルにいてキマリに会いました」
それからキマリ、ユウナと一緒にビサイドに行ってそこで家族同然で過ごしていたこと。
ルールーやワッカに出会ったこと。
ワッカのチームの応援でルカに行ったこと。
色んな事を話した。
アーロンさんはただただ私の話に耳を傾けていた。
「……そうか、ユウナとは親子みたいなものか」
「な!そ、そこまで歳離れてません!」
ちょっと気にしてたのに……
「ふっ……」
その笑顔だ。
ドキドキしてしまう。
「ア、アーロンさんは何をなさってたんですか?」
悟られないように逆に質問する。
伝説のガードなんて話は噂になっていたけど、スピラでアーロンさんを見かけた話は聞いたことがなかった。
ただ純粋に気になった。
「俺か?そうだな、俺はあいつの子守りだ」
アーロンさんの視線の先にはユウナと楽しそうに話しているティーダ。
ティーダのことはジェクトさんとの約束だって言ってたっけ。
ということはジェクトさんの代わりに子守りをしていたってことか。
あれ?でもジェクトさんは?どこにいるんだろう。
それよりもさっきの仕返しとばかりに私は言ってみる。
「アーロンさんこそお父さんじゃないですか……アーロンさんが子守りって想像出来ない」
「……うるさい」
そう言いながらもお互いに笑い合う。
何だろうこの感じ。
今日初めて会った筈なのに、この懐かしい感じは。
アーロンさんの側にいるとドキドキするけど落ち着く……そんな感じだ。
ずっと側にいられたらいいな……なんて。
「でも、そしたらティーダってすごいですよね」
「何がだ?」
「だって伝説のガードのお二人が父親なんですよ?」
「伝説か……そんな大層なものでもないがな」
「そんな謙遜しなくていいですよ!ホントに私、アーロンさんと旅できるの心強いし嬉しいんですから」
「そうか……では、サクラの為にも頑張るとするか」
また笑って、アーロンさんは私の頭に手を乗せる。
その大きく剣ダコでごつごつした手の重さに顔が熱を帯びていくのを自覚する。
やばい、コレ……
好きになっちゃうかも……
俯いた顔を上げられないでいると、いきなりユウナとティーダの笑い声が響いた。
「……壊れたか?」
「ですね……」
―――――
「チョコボを狙う魔物かぁ」
ジョゼ寺院への道中、チョコボ騎兵隊の方達からそんな情報を得た。
「退治してやろっか?」
軽い感じでティーダが言う。
私もティーダと同じことを考えていた。
「私も賛成」
「何故だ?」
「何でって……困っている人がいるなら助けてあげたいですし……ね、ティーダ」
「だよな、皆困ってんだろ?」
ティーダと顔を見合わせ、うんうんと頷く。
「皆困っている……か」
そう言うとアーロンさんは笑い始めた。
「なーんスか」
笑われるようなことは何もしてない筈。
不服そうな顔でそちらを見れば、ひとしきり笑ったアーロンさんと目が合う。
「ジェクトもよく同じことを言っていた……お前もな、サクラ」
そう……なんだ。
「私、ジェクトさんにもお会いしたことあるんですか?」
「ああ」
短い返事が返ってくる。
まぁそうか。
アーロンさんに会ったことあるってことはそうだよね。
「ジェクトのおかげで俺とブラスカはいつも面倒に巻き込まれてな」
そうは言うものの何だかアーロンさん楽しそう。
それとは違ってばつの悪そうなティーダ。
その様子がおかしくて皆が笑っていた。
こんなふうに笑って旅出来たらいいな。
そう思った。
―――――
ミヘン街道を進んでいくと色んな人達から物資を頂いた。
どうやらこれから大掛かりな作戦が始まるらしい。
機械を使うなんて言ってたけど、それで『シン』を倒せるのだろうか。
正直嫌な予感しかない。
「ここで休んでいく」
アーロンさんの提案に私達は旅行公司で休んでいくことになった。
アルベド族の店だからと反対していたワッカも「俺が疲れたんだ」と言うアーロンさんには逆らえず、しぶしぶ部屋に入って行った。
きっとブリッツの大会のことを気にしてくれたんだと思う。
ワッカぼろぼろだったもん。
ユウナだって疲れてるはず。
アーロンさんに言われればちゃんと休んでくれるよね。
―――――
「アーロンさん、ありがとうございました」
「何がだ?」
私はロビーで一人酒をしているアーロンさんを見つけ、声をかけた。
「ユウナとワッカを休ませようとしてくれたんですよね」
「……さぁな」
素っ気なく言うアーロンさんに微笑む。
すると、小さな器を私に差し出して、
「……飲むか?」
外はもう闇に染まり、皆はそれぞれの部屋で休んでいることだろう。
私も目が覚めたから少し外に出てみようと思っただけ。
だけど、アーロンさんに誘われては断れない。
いや、一緒にいられるのが嬉しかった。
「飲んでみます」
「飲んだことはなかったか?」
「たぶん……」
「まぁもういい歳だ。飲んでも損はなかろう」
そう言って一杯ついでくれる。
そのツンとする匂いに顔をしかめながらも、一口くちに含む。
苦いような辛いような、でも甘味もある。
「どうだ?」
「……変な味ですね」
「フッ……そのうちわかるようになるさ」
素直に味の感想を言ってみれば柔らかい笑顔が向けられる。
「っ……!」
顔がかぁっと熱くなる。
恥ずかしさを紛らすように注がれた一杯を一気に飲み干した。
「お、おい!あまり一気に飲むな」
飲んでしまって後悔する。
喉が焼けるように熱い。
頭がくらくらする。
あれ?
アーロンさんが歪んでる?
「アーロンさん……?」
歪んでしまったアーロンさんを確認するように顔を近付ける。
「な、なんだ」
「何で逃げるんですか?」
後退りして逃げようとするアーロンさん。
捕まえようと椅子から立ち上がり、手を伸ばすがバランスを崩してしまう。
「あ……」
しかし、私の体は地面に打ち付けられることはなくがっしりとした胸の中にあった。
顔を上げると呆れたようなアーロンさんと目が合う。
「俺が悪かった、もう休め」
「アーロンさんも一緒がいいです」
「……は?」
「アーロンさんがいいです」
「!!」
何だか人に甘えたくなって、ぎゅうとアーロンさんにしがみつく。
お酒の匂いとアーロンさんの匂いが鼻腔をくすぐる。
アーロンさん……いい匂いだなぁ。
その匂いと体温に気分が良くなり睡魔が私を襲った。
「……サクラ?」
アーロンさんの声が聞こえる。
けどもう眠くて声が出ない。
「寝たか……あまり俺を煽らないでくれ……この気持ちを抑えられなくなってしまう……」
大きな手で頭を撫でられ心地のいい声を聞きながら、私は完全に夢の世界へと旅立った。
「……俺以外の前では飲ませないようにしなければいかんな」
―――――
ズキンズキン……
頭が痛い。
夜中にアーロンさんに会って、少しお酒を頂いて……
その後どうやって部屋に戻ってきたんだっけ?
思い出せない……
取り敢えず支度をして部屋の外へ出る。
「おはよ〜」
「あ、サクラおはよ〜」
先に起きていたユウナ達に挨拶をして周りを見渡す。
そこにアーロンさんを見つけ駆け寄った。
「おはようございます」
「ああ」
「……私、昨晩何か失礼なことしませんでしたか?」
「……一杯酒を飲んでつぶれた。それを部屋まで運んで行った。それだけだが」
マジですか。
……最悪だ。
自分の失態に顔が青ざめる。
「すみませんでした!もうお酒は飲みません!」
全力で頭を下げる。
「そうだな、俺以外の前では飲まないほうがいいだろう」
お酒に弱いことがわかり、禁酒宣言をしていると、
「いやーーー!」
女性の叫び声が聞こえた。
「だ、だれか助けて!チョ、チョコボが!」
前に聞いたチョコボを狙う魔物!?
「おい、出番だ。魔物を倒すんだろう」
アーロンさんは向こうで話をしていたティーダに声をかける。
「行こう!」
私は我先にと走り出した。
外に出ると、長い腕でチョコボを鷲掴みしている魔物が暴れていた。
「でか……」
思ったより大きな魔物に一歩後退る。
とんと、背中が何かに当たった。
「どうした?さっきの勢いは」
「あ、アーロンさん」
後ろから声をかけられ、それがアーロンさんだと分かる。
「怖じ気づいたか?」
「……まさか!」
アーロンさんに煽られ、再び走り出す。
「皆、行くよ!」
「ああ!」
「うん!」
短い返事達が返ってきて気合いが入る。
「ファイア!」
まずは一発。
効いている。
しっかりと手に握りしめていたチョコボが離される。
ほっとしたのも束の間、仕返しと言わんばかりにパンチが飛んでくる。
「そんなの当たらないよ」
今のパンチは正直読んでいた。
後ろに跳んで避けると、「ほう」とアーロンさんの声が聞こえる。
「成長したようだな」
「ユウナのガードですから」
「頼もしい限りだ」
笑みがこぼれる。
アーロンさんに認められたみたいで嬉しかった。
だけど、走ったり跳んだりしているうちにだんだんと気分が悪くなる。
(頭ガンガンする……吐きそう……)
これってもしかして……二日酔い……?
向こうでは皆が戦っている。
うずくまっている場合じゃない。
頭を押さえながらチョコボイーターのほうを向くと目が合った。
そして、奴は『次はオマエだ』と私を指さしてくる。
まずい……
今攻撃が来たら避けられない。
後ろは崖。
「逃げろ!サクラ!!」
アーロンさんが声をかけてくれる。
ヤバい攻撃が来るのはわかっている。
逃げたいのは山々なんですが……
ふらふらと立ち上がり1つ息を吐いたところで腹に重たい衝撃が走った。
「がっ……はっ……!!」
体が宙を舞っている。
浮遊感を感じながら私は意識を失った―――
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