記憶の彼方


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2章


村を出ると、大草原が広がった。

「うわぁ……綺麗……」

普段見たことのない景色に思わず声が出る。

「どこにでもある風景だろう。お前はおかしな事ばかり言うな」

呆れたような顔でアーロンさんが言う。

「すみません、私の世界だと自然があまりなくて」

そこまで都会に住んでた訳でもないけど、ここまでの大自然は中々お目にかかれないよ。
まぁ、あちこちに抉れたような地面が見えるのは……やっぱり『シン』なんだろうな。

「それってやっぱりザナルカンドじゃねえのか?」

似たような境遇のジェクトさんが興味ありげに私の顔を覗きこむ。
結構近くに顏が来たものだから、少し身を引いてジェクトさんを一蹴する。

「だから違いますって。ちょっと似てるかもしれないですけど」

「!?その言い方、ザナルカンドを知ってるのか!?」

言ってから後悔した。
余計な事言っちゃった。

「えっと……、見たことはないですけど、そうなのかなって……」

適当に誤魔化せるかな……
ここで余計な事で時間かけちゃったらアーロンさんと一緒にいれる時間が減っちゃうじゃない。
夢なんていつ目が覚めるか分からないんだから。
有耶無耶な私の答えに納得してないのか、ジェクトさんはじぃっと私の顔を覗いたまま。

「えっと……」

なんとか誤魔化す術はないかと、視線を空にさ迷わせ考える。
そんな私に降ってきた言葉は思いもよらないものだった。

「……お前良く見ると可愛いな」

「は!?」

なななな何を言ってるんだ、この人は!
突拍子もない言葉に目を丸くする。

「おいおいジェクト、君は妻子持ちだろう。惚れてはダメだよ」

ブラスカさんまで、何を言って!

「かっ、からかわないでくださいっ!!」

そんなこと言われたことのない私は恥ずかしさで顔が熱くなる。
二人から目を逸らすとそこには呆れ顔のアーロンさんがこちらの様子を見ていた。
ほら……アーロンさんが引いてるじゃない。

「からかった訳じゃねぇけどな……アーロンが羨ましいぜ」

「なっ!」

いきなり会話に混ぜられたアーロンさんが、うろたえている。


「俺には関係ないだろう!」


強めの言葉が私の胸を突き刺す。

関係ない……うん、そりゃそうだ。
初対面だもの。

でも、やっぱりその言い方はショックだよ。
さっきまで恥ずかしさに熱くなっていた顔は一気に冷めた。
沈んだ気持ちを振り切って言葉を探す。

「……そうですよ。さっき会ったばかりなんですから関係ないです。さぁ、進みましょう!」

なんでかな、今は誰の顔も見たくなかった。
たかが夢なのに。
無理に笑って先頭にたって先を急いだ。

「お、おい」

アーロンさんに声をかけられるが、聞こえないふりをして歩き続けた。
後ろで皆が話している声が聞こえる。

「アーロン、あの言い方はダメだよ」

「サクラちゃん、ショック受けたんじゃねえか?」

「……」

ブラスカさんとジェクトさんに慰められてるみたいで、ちょっと目頭が熱くなってきた。

「はぁ……」

夢なんだったらもっといい言葉をくださいよ、アーロンさん。

そんな事を考えていた私は、草むらに潜んでいた魔物に気付かなかった。
もちろん戦闘経験なんて皆無の私。
魔物の気配なんてわかるはずがない。

気付いた時には、自分の背丈の二倍はあろうかという魔物が既に目の前にいた。

「おお!?……うわぁ、おっきい」

ゲーム画面でしか見られない魔物を前に悠長に感想を述べる。
突っ立っている私は魔物の恰好の餌食なわけで。
魔物は躊躇することなく私めがけてその鋭利な爪を振り下ろす。
夢だと分かっていても、来るであろう衝撃に身構えた。

ああ……もうおしまいかぁ……




ザシュッ……!!




「!!え……?痛……い……?」

そのまま現実に引き戻されると思った。
それなのに、今目を開けてもやっぱりそこには魔物がいて……
左肩には激痛が走っていて……

だってこれ……夢でしょ?

激痛が走る左肩を見れば、そこは肉が抉られ血が噴き出していた。

「う……そ……」

「サクラ!!」

アーロンさんの声が聞こえる……
もう声も出ない……

赤い服を視界の隅に入れたところで、私は意識を手放した―――




―――――



「ここ……は……?」

気がつくとそこは真っ白な空間。
ふわふわと浮いている感じだった。

「私……死んじゃったとか?」

確かFFXの世界の夢を見ていて、魔物の攻撃を受けて……
自分の手を見ながら呟くと、それに答えてくれる声があった。

「君は死んでいないよ」

「!?」

びっくりしたぁ……
声がしたほうを振り向くと、そこには不思議な紋章のような模様のついた服を身にまとった男性がいた。
見たことのない人。

その人物を視界にいれた途端、頭痛が私を襲った。

「っ……!」

胸元のペンダントが赤い光を発しながら浮いている。
左手で頭を、右手でペンダントを握り締め痛みに耐える。

このペンダントは私のおばあちゃん、お母さんから代々受け継がれてきた大事なもの。
成人した日にお母さんがくれたっけ。
いつか必要になる時が来るかもしれない。
だから大事に身に着けていなさいって。
何かご利益があるんじゃないかと何かある度に祈ったりしてみたけど、今のとこ特にこれといった効果はない。

「君の意識の中に私がお邪魔しているだけだ」

今もやっぱりペンダントに祈っても頭痛は収まらない。
頭が痛いのにその人は話し続ける。
けれど私は声が出なくて。
心の中で問う。

あなたは誰?

「急に呼んでしまってすまない」

……聞こえてないのかな。
質問の答えが返ってこない。

「私の夢の住人がスピラに来てしまった」

一方的に話すその人。

よく分からない状況なのに、何だか懐かしい感じ……

「彼を犠牲にすることは私の望みではない」

彼って誰ですか。
っていうかあなたは誰なんですか。

聞きたいのに頭がぼーっとして意識が朦朧とする。

「私を止めてくれ―――」


ホントに一方的な彼の言葉を最後に、再び私は意識を手放した―――




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