記憶の彼方


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36章


「おいおいおいおい……なんかやばいぞ!?」

飛空艇の大きな揺れの後、空に見えた球。
それはどんどんと大きくなり、『シン』がとてつもない力を溜めているのが分かる。
その球の中に自身が入ったかと思えば、更に力を溜め込む。

「何をしようとしているの……?」

見守ることしか出来ず凝視していると、『シン』を中心とし放射線状にエネルギーが放たれた。
その衝撃に目を閉じる。


一瞬の静寂。


目を開くと大地が海が……裂けていた。
桁違いの威力に全身の力が抜ける。

「え……えええ!」

次の瞬間、裂けた海が元に戻ろうと大きくうねり津波を起こした。
衝撃は空まで伝わってくる。

「くっ……!」

「くそオヤジ……!」

「おい!『シン』の腕んところ光ったの見えたか?ありゃ絶対何かあるぜ!」

シドさんがそう言うものの、考え始めようとする前に鬼気迫るアニキさんのアルベド語が響いた。

「ヤブミ!」

アルベド語はわからないけどその感じから察するにまずいことが起こっているらしい。
リュックが訳してくれるが、その時にはもう『シン』の腕がすぐそこまできていた。
『シン』の操るものは重力。
引き寄せられては逃げようがない。


もう、やるしかない。

私は手首にある10年前の仲間達との絆に触れ、力を請うた。

ブラスカさん、ジェクトさん……力を貸してください。

その時、頭に置かれる大きな手。

「いくか」

その手に安心と決意で心が満たされる。

「……はい!」

アーロンさんの言葉を皮切りに、私達は地を蹴った。



ーーーーー

「やった……」

私達が出来る限りのダメージを与え、飛空艇のキャノンで腕を落とす。
それを二回。要は両腕。
言うのは簡単だがそれを成した今、正直皆は息が上がっている。
それでもここまで出来たのもスピラ中の皆が祈りの歌を歌ってくれているから……ジェクトさんが頑張ってくれているから……

希望の光が……見えてきた。

だけれど、威勢のいいシドさんとは正反対の落胆したアニキさんの声。
何が起こったのだろう。


「……主砲、壊れたってさ……」

「ええええ!?」

これからって時に……
『シン』の体に穴をあけて、そこから体内に突入する作戦は……

「仕方ねえ!おまえら戻れ!作戦ねりなおーし!」


誰もがどうしようかと迷う中、


「いーや、行くッス!」

シドさんの提案に乗らない少年。
強くて真っ直ぐな瞳。
父親のそれと瓜二つだ。
……それをこの子に言ったら嫌がられるんだろうけど。

ちょっと嬉しかった。
子の成長を喜ぶ母親ってこんな感情なんだろうな。
私なんかより10年間見守っていたアーロンさんのほうがそう思ってるかな。
そんなことを考え、アーロンさんを見る。

「……なんだ?」

「いえ、ここまでティーダを立派に育ててくれたんだなーと」

「……俺は何もしていない」

「でも、確実に親代わりはアーロンさんですし」

「ふん……ジェクトに何を言われるかわからんからな」

「確かに」

容易にその場面が想像できて、私はくすっと笑ってしまった。
アーロンさんも口元が緩んでいるのが見えた。



「勢いがある時は勢いに乗るッス!これブリッツの鉄則!!」

「何とも無謀だが、痛快な作戦だ」

「ふふ……ティーダ、カッコいい」

私の言葉に眉を寄せこちらを見るアーロンさん。
視線をそのままに私の背中、そして膝裏に手を回すとふわっと体が浮く。

「うわっ……!」

「……先に行くぞ」

「ぅえ!?ひっ……ひぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

私を横抱きにしたまま、飛空艇をたんっと蹴ったアーロンさん。
更なる浮遊感と落下感に奇声を発しながらアーロンさんにしがみついた。

「何だよ!見せつけかよ!」

そんなティーダの声が聞こえたような、そうでないような。



ーーーーー

「いてっ!」

着地に失敗したリュックの短い悲鳴が聞こえる。
そんな中、大変申し訳ないが私は愛しい人の腕の中な訳で。
違う意味でのドキドキに顔を熱くしていた。

「あ……ありがとうございました」

優しく足から降ろされ、まさしく『シン』に降り立った。
飛空艇での戦闘の勢いそのままに『シン』の上を駆け、見つけた攻撃の対象。
「勢いに乗る!」その言葉の通りに怒涛の攻撃を繰り出していく。



「どうだ!やったか!?」

そう思うのも無理はない。
『シン』は下降を始めていた。
力を失ったかのように。

私達は崩れ落ちていく『シン』を避難した飛空艇から見下ろしていた。

「復活……するんだよね」

「たぶんな」

「『シン』の中にいるエボン=ジュを倒さなければ終わることはない」

相当なダメージを与えたはずだけど結局は一時凌ぎ。
緊張の糸を切らさないように私は自分に言い聞かせるように言った。

「これだけで倒せたら討伐隊だって苦労しねえよな」

「でも『シン』を弱らせたのはたしかじゃない?」

「そうだよそうだよ!」

確かに弱らせている。
でも外をいくら叩いても駄目なんだ。
飛空艇の主砲が壊れてしまっている今、中に入る方法は……
ティーダが言っていた「口から入るか『シン』の体に穴あけるか」……

そう、後者が駄目なら前者!

ジェクトさんは待っている。
早く終わらせてあげなきゃ……!


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