記憶の彼方
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35章
「皆、いい?」
「『シン』の中にいるエボン=ジュってやつを倒すんだよな」
ブリッジで私達はこれからの戦いの最終確認をしていた。
飛空艇はスピラ中の人々に祈りの歌を歌うことをお願いするために飛んでいる。
「そう……ジェクトさんが歌を聞いて、私達に協力してくれるのにかけるしかない」
「……奴は無限の可能性にかけてみると言っていた。奴なら……ジェクトならやってくれるだろう」
「アーロンさん……うん、そうですよね」
アーロンさんの言葉に私は力強く頷いた。
アーロンさんは友を信じている。
彼との約束の為に死してもなお、ザナルカンドに赴きティーダの面倒をみていた。
そしてこの死の螺旋を止める為に再び旅を始めたんだ。
「でもよ、『シン』が来たとしてどうやって中に入るんだ?」
「それは……」
「口から入るか『シン』の体に穴あけるかどっちかだろ」
至極当然のようにティーダが言う。
そんな簡単にいくだろうか。
「上手くいけばいいけど……」
その時、不気味な笑い声が後ろから聞こえた。
「へっへへへへへ……」
「気持ち悪いなぁオヤジ」
「うるせぇ!どえらい作戦じゃねぇか!」
不敵な笑みを浮かべるシドさんに操縦席にいるアニキさんが話しかけている。
しかし、それがアルベド語の為私にはわからない。
「おう、アレだな!」
「アレ?」
「おうよ!でっけぇ風穴あけてやっからよ!そっから飛び込め!」
あの『シン』に風穴をあけるなんて……
本当にそんなこと出来るのだろうか。
だとしたらこの飛空挺ってめちゃくちゃ凄いんじゃ……
私は少し不安になりリュックに耳打ちする。
「……リュック、大丈夫かな」
「う〜ん……オヤジの言うことだしね……でもこの飛空挺は凄いよ。だからきっと大丈夫だと思う」
「そっか……じゃあお願いしよう!」
私達が『シン』を引き付けて、シドさんに『シン』の体に穴をあけてもらう。
そして、隙を見つけてその穴から『シン』の体内へと入り込む。
中には究極召喚獣となったジェクトさんがきっといる。
彼を倒さなければエボン=ジュは姿を現さない。
……彼に乗り移っているのだから。
言うのは簡単だけど、私達はとてつもなく無茶なことをやろうとしている。
この作戦を提案したのは私だけど、正直不安しかない。
だけど、これだけは揺るがない。
私は……皆を守りたい。
決意を固めると同時に頭に重みを感じた。
アーロンさんが私の頭に手を置き、見つめていた。
「一人で気負うな。俺を……仲間を頼れ」
アーロンさんの言葉に皆の視線が私を向く。
皆の顔は自信に満ちていた。
「はい……!」
とても心強いその表情に私は大きく頷いた。
―――――
「わぁ……聞こえる……!」
私達はスピラ中を回り、皆に声をかけた。
「『シン』を倒すために、永遠のナギ節のために、皆の力を貸してください!」
「空飛ぶ船から祈りの歌が聴こえたら一緒に歌ってください!」
そうお願いしながら回ったんだ。
もちろんグアド族にもアルベド族にも。
グアド族にはシーモア老師が中心となって、アルベド族にはリュックやシドさんが話してくれた。
ジェクトさんの動きを抑える為に……
その結果がこれだ。
甲板に出れば四方八方から祈りの歌が聞こえる。
私達の祈りの歌を聞いて一緒に歌ってくれている。
私は耳の後ろに手を当て、スピラの人々の歌声を拾っていた。
「……本当だわ」
「皆歌ってくれてる!」
『シン』のいない世界はスピラ中の皆が望んでいること。
この歌声が何よりの証拠だ。
「期待に応えるッス!」
「うん!」
「ユウナ」
「ん?」
「これ、もういいだろ?」
そう言ってティーダがポケットからスフィアを取り出した。
「何それ?」
「えっと、あの……!」
「いらないよな!」
ユウナの答えを待つことなく、ティーダはブリッツで鍛えあげたその豪腕でスフィアを空の彼方へと投げやった。
流れ的にあれはユウナのスフィアだったのではなかろうか。
捨ててもいいのかな……
ティーダの行動に目を丸くしていると、私の耳元でティーダが呟いた。
「……ユウナ、皆に別れの言葉を残してたんだ」
「!そっか……」
死ぬ覚悟……してたんだもんね。
それはまさしく遺言。
だけど、究極召喚はもうない。
ユウナは死なない。
だからもう遺言なんていらない。
私達はスピラの歴史を変えるんだ……!
皆が決意を固め、頷いた時だった。
「きゃ……!」
機体が大きく揺れ、私は体勢を崩した。
もちろんアーロンさんがしっかり支えてくれたのだけど。
そして飛空艇を重たい空気が包み込む。
「来た……!」
巨大な圧倒的な存在が姿を現す。
あれがジェクトさんだと分かる今、私は懐かしさと悔しさとで溢れ出る涙を堪えるのに必死だった。
ジェクトさん……待ってて。
今行くから……!
私は涙を振り払い、彼を見た。
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