記憶の彼方


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30章


「おかえり」

え……?
誰……

「そうか、君がここに来るのは初めてだね。僕は祈り子、バハムートの祈り子だよ」

バハムートの祈り子様!?

「うん、ここがどこだか分かる?」

……ザナルカンド?

「そう……1000年前の姿。サクラ……君の祖先はここで暮らしていたんだ」

……夢でエボン様も言っていた。
あれは本当なの?

「うん、エボンは君の祖先だよ。……機械戦争が終わりを迎える時、エボンの妻は妊娠してたんだ。エボンはこのままでは助からないと思って、彼女を違う世界へ飛ばした」

戦争で命を落としてしまう可能性があったから……
奥様と、お腹の子を助けたかったんだ。
そしてその子孫である私が10年前、突然スピラに現れたってことか……

「そう……この死の螺旋を止めて欲しかったから」

死の螺旋……
それは『シン』による破壊のこと?

「うん……」

私が『シン』を止めるっていうこと?
『シン』は究極召喚じゃなきゃ倒せないんでしょ?
私にそんな力ないよ……

「君の記憶の奥底にあるはずなんだ……『シン』を本当に消滅させる方法が」

本当に消滅させる……?
それじゃあ究極召喚で『シン』を倒すことは出来ないっていうことなの……!?

「倒すことは出来るよ。でも『シン』のいない一時のナギ節が訪れるだけ。それは次の『シン』を生み出している期間に過ぎないんだ」

そんな……じゃあ究極召喚では永遠のナギ節を迎えることは出来ないの……?

「残念だけど……だからこそ君の記憶の奥底にあるエボンの妻の記憶が必要なんだ。彼女はただ一人、『シン』を消滅させる方法を編み出していた。そして、それだけの力も持っていた。僕達祈り子もそれは知らないんだ……エボンも……
きっととても危険な方法なんだと思う。だから力を持つエボンの末裔である君が必要なんだ」

私がエボン様の末裔……
でも、私は何も知らない……
このままじゃユウナを失って、スピラも何も変わらない……!

「焦らないで……この先に行って……ザナルカンドで彼女に会えばきっと……」

祈り子様!?

祈り子様の姿が霞んでいく……

「さあ、起きて……大事な人が君を待っているよ……」


―――――


「サクラ!!おい、起きろ!!」

「ティーダ!お願い、目を開けて!」

「どうしちまったんだよ、おい!!」

「ねえ、起きてってばぁ!」

仲間達の声が聞こえる。
その声に応えるようにゆっくりと目を開ければ、目の前に焦りの色を隠せない隻眼。

「アーロン……さん?」

私が口を開けば、次の瞬間思い切り抱き締められる。

「心配……かけるな」

「すみません……」

私の意思ではないんですけども……

「もぉ……すんごく心配したんだからぁ!」

「大丈夫?」

「……うん」

リュックやルールーの声が聞こえ、そちらに視線を写す。
そこには起き上がろうとしているティーダがいた。

「ティーダもお前と一緒に倒れたんだ」

「そうなんだ……」

じゃあティーダも何か見て……
ティーダの顔つきは明らかに以前とは違っていた。

「どう……したの?」

ユウナもその様子に気付いたようで尋ねるが、

「何でもないよ、気ぃ失って夢見てた。皆に呼ばれて目が覚めた」

あくまで平静を装った。

「ティーダ……」

「サクラも倒れたんだってな。大丈夫か?」

「うん……」

お互いそれ以上は何も言わず、ティーダは軽快に「よっ」と、私はアーロンさんに手を取られながら立ち上がる。

「はぁ、よく寝たし気力回復!んじゃ、行くッス!」

「皆ごめんね、行こうか」

先に進めば何か分かる。
自分の目で確かめなきゃ。
そして、ユウナを犠牲になんかしない。
私が『シン』を止めなきゃいけないんだ。

私は『シン』を消滅させる。
そう、覚悟した。




ガガゼト山の試練は水中での行動となった為、ティーダ、ワッカ、リュックに任せた。

「お疲れ様」

「ふいー疲れたぁー」

「ふふ、回復するよ」

頑張ってくれた3人に回復魔法をかける。

「あ、ティーダはユウナが良かったね」

「な……!サクラこそ、俺とかワッカに構ったらアーロンに睨まれるッスよ!」

「う……!」

ティーダをちょっとからかったらお返しがくる。
流石に仲間を回復して嫉妬はないでしょうよ!

「ふざけてないで先に進むぞ」

そのアーロンさんに腕を引かれ前に進む。

「そろそろ……来るはずだ。召喚士の力を試すために奴は魔物を放った」

奴……?

「誰が……ですか?」

「ユウナレスカだ」

「ユウナレスカ様!?」

スピラの歴史上初めて『シン』を倒した召喚士様。
その人がこの先で待っている……?
何度も聞いた名前……
このスピラで知らない人はいない。
だけど……懐かしい名前……私はそう感じるようになっていた。

「ザナルカンドで強い召喚士を待っている」

「生きて……いらっしゃる?」

「いや……奴は死人だ」

「……そうですか」

「怖じ気づいたか」

「いいえ、もう……何も怖くないんです」

「フン……ブラスカの娘だな」

「最後までそうありたいと思っています」

ユウナは凛とした表情でアーロンさんに答える。
もう覚悟は揺るがないものになっているのだろう。
そんなユウナを死なせない為に何をしたら良いか、今の私では到底出せるはずもない答えを頭の中で必死に探していた。

「来る!」

アーロンさんの声に緊張が走る。
考え事している私の事なんてお構いなしだ。
恐らくはさっき言っていたユウナレスカ様が放った魔物。

「おっきぃ……」

「踏み潰されたくなかったら俺の側にいろ」

「はい……」

アーロンさんの二倍以上もある背丈。
ドラゴンのような見た目。
その魔物を見て呟けば、アーロンさんが背後に庇ってくれる。
照れ隠しなのかちょっと意地悪言いながらだけど、さりげない優しさに不謹慎にもときめいてしまう。

「奴は手強い。10年前を覚えていないかもしれないが、サポートを頼んだぞ」

「はい!」



回復持ちの魔物って……
戦いが長引いてしまった私達はだいぶ疲弊していた。

「ねえ!ちょっと休憩しない?」

リュックが提案する。
正直私も賛成だったけど、

「休む必要はない、あと一息で山頂だ」

アーロンさんに一蹴される。

「あとちょっとだから休みたいんだってば!考える時間少ししかないんだもん……」

「リュック……」

うん……
そうだよね……

もうザナルカンドはすぐそこまで来ている。

『ザナルカンドで彼女に会えばきっと……』

バハムートの祈り子様の言葉。
さっきのアーロンさんの言葉から『彼女』というのはユウナレスカ様ではないかと思い始めた自分がいる。
私の中にあるはずの記憶……
それを思い出せばユウナは死ななくても済むんじゃないか……
今はそれに懸けるしかなかった。


皆の足取りは自然と重くなる。
その足を止めてしまうティーダ。

「おう、どした。行こうぜ」

「ほんとに……もうすぐなんだよな」

「とうとうここまで来ちまったなぁ……」

ワッカと話すティーダ。
気が重いよね……

「ふん」

それを聞いていたアーロンさんが鼻で笑っている。

「?」

「何がおかしいんだよ」

「昔の俺と同じだ」

「え?」

「あの時……ザナルカンドに近付く程俺も揺れた。辿り着いたらブラスカは究極召喚を得て……『シン』と戦い、死ぬ。旅の始めから覚悟していた筈だったが……いざその時が迫ると怖くなってな。……サクラ、お前も一緒に悩んでいたな」

「そうなんですね……」

今と同じだ。
召喚士を死なせない為に。
きっとここを通るガード達は皆同じことを考えたに違いない。

「なんつうか……意外です。伝説のガードでも迷ったりするなんて……」

「ふん……何が伝説なものか。あの頃の俺はただの若造だ。ちょうどお前くらいの歳だったな」

ワッカに自嘲気味に話すアーロンさん。

「何かを変えたいと思ってはいたが……結局は何も出来なかった。それが……俺の物語だ」

アーロンさんの物語……
何も変えることが出来ず、一人で苦しみ……命を落とした……

それが後悔となって、彼は今現世に留まり二度目の旅をしているんだ。

アーロンさんの過去を考えれば、胸が締め付けられ苦しくなる。
私は拳を握り、胸に押し当てていた。
苦しさを少しでも紛らわすように……

その手をアーロンさんはそっと包んでくれる。
気にするな、そう言っているかのように……



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