記憶の彼方


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28章


野営地の前で一組のカップルと会った。
ティーダとユウナだ。
二人は繋いでいた手を離し、気まずそうに視線をきょろきょろさせている。
……あっちも何かあったな。
私達は無言で会釈しながら野営地に戻った。

我ながら異様な光景だろうなとは思うけど、皆は黙ってこちらが口を開くのを待っていてくれた。

「えっと……」

口を開いたのはユウナ。
皆の顔を見て、一人一人の名前を呼ぶ。

「夜が明けたら出発します。それから……」

「色々心配かけてごめんなさい」

これは私。
周りに何の話もせずに突っ走ってしまった。
ユウナもきっとシーモア老師を止めるために、相談をもせず行動したことを悔いているんだろう。
私達は皆に頭を下げた。

「もういい。ゆっくり……休んでおけ」

もう気にしなくていい、そんな意味を込めたアーロンさんの優しい言葉に救われる。

「はい、おやすみなさい」

ユウナの挨拶で、皆それぞれ体を休めようと動き出す。
私も木にもたれかかって座ろうとしたところだった。
にやけた顔のリュックが近づいてくる。

……嫌な予感。

目を反らして奥へ行こうとするが、

「ちょぉーっと待った」

捕まった……。

「ユウナのことも気になるんだけどさ……まずはその指輪よ」

ニヤニヤと私の左手を指差している。
もう見つけたなんて……観察力の高い子だ。

「何々?」

「あら、素敵な指輪ね」

ユウナやルールーもやってきて、皆私の左手に集中する。

「おっちゃんからでしょ」

「!?」

実際に言われると恥ずかしくなる。
そりゃ二人でいたんだもん、アーロンさんに貰ったなんて誰もが分かることなんだけど……

「見せて見せて!うわぁ……キレ〜イ!サクラは色が白いから赤が似合うね」

「そうかな……」

「アーロンさん分かってるなぁ」

「やっぱりアーロンさんはサクラのこと好きだったのね」

「やっぱり……?」

「結構分かりやすかったわよ?アーロンさん」

「え?そうなの?」

ルールーの言葉に目を丸くする。
全然気付かなかった私って……

アーロンさんから聞かせてもらった10年前の話……
皆に話しておいてもいいかな。


私はアーロンさんから聞いた10年前のことをかいつまんで話した。

「じゃあ……サクラも父さんのガードをやってたってこと?」

「そうみたい。思い出せてないんだけどね」

「でも何で今更話してくれたのかしら」

「それは……」

「そりゃあシーモアに嫉妬したからでしょ〜よ」

びしっと人差し指を立てて断言するリュック。
当たりですけど……
ユウナもルールーも成る程……と微笑み頷いている。

「ふふ……愛されてるね、サクラ」

「10年も想い続けてたなんて、おっちゃんも一途だねぇ」

「ええ、本当に素敵な話ね」

うっとりしている女性陣。
その話の中心の私は恥ずかしくて堪らない。

「でもさ、サクラに逢えた時に恋人だったんだよって言えば良かったのにね」

それは……

アーロンさんが死人だなんて話はしたくない。
というか話してはいけない気がする。
……その時が来るまで。

「サクラに好きな人がいるかもしれないとか考えたんじゃない?」

「そうだね……だって10年だもんね。10年もあったら一人くらい好きな人出来てもおかしくないもん。サクラは色んな人に告白されても興味なしだったけどね」

「やっぱりサクラモテたんだ!」

「そりゃあ……ね?」

「ユ、ユウナ!」

モテてないし!
ただ色んな人に声かけてもらって食事とかに誘ってもらっただけだし!

「ユ、ユウナは?ユウナもティーダと手繋いでたじゃん!」

「え!?サクラ見てたの……?」

「お?ユウナもか〜?」

ユウナは分かりやすく顔を赤くする。
わくわくした様子のリュック。

「好きになっちゃ駄目って言ったのに……まぁ、そんなに簡単に気持ちは止められないわよね……」

溜め息をつきながらもどこか嬉しそうなルールー。
人を好きになるなんて、とても素敵なこと。
だけど、召喚士の行く末を考えると……
でも私はユウナにこの素敵な気持ちを経験してもらいたい。
恋を知らないなんて寂しいもの……
だから嬉しかった。
きゃあきゃあとガールズトークに花が咲く。

「……うるさい。早く休め」

「あ、すみません……」

顔をしかめたアーロンさんに注意され、私達は休むことにした。





青空とただただ広い平原。

マカラーニャの森を出ると景色が拓けた。

「ここがナギ平原……」

「歴代の大召喚士様が『シン』と戦った土地。そして……道が終わるところ。この先にはもう街も村もない、道なき荒野よ」

ルールーがティーダに説明してくれている。

遂に来てしまった……
この先に進みたくないような、そんな気分だった。

「だからこそ道を見失って迷う召喚士もいる」

ここで旅をやめてしまった召喚士は多いのだろう。
だけどユウナは……

「私は……迷わないよ」

そうだよね。
ユウナはとても強い。
ユウナの覚悟は折れることはないんだろう。

でも……

何か……何かユウナが死ななくてもいい方法はないものか。
私はそんなことを考え始めていた。


「俺……死なせない。絶対何とかする」

だから、ティーダのその言葉にはっとした。
それを口に出したらユウナの覚悟を否定してしまうような気がして……
私が言えなかった言葉をティーダは言ってくれた。
そんな方法なんて今は何も考えつかないけれど、何とかしたい……その気持ちは強くなった。

「私も……」

「サクラ?」

「ユウナを死なせたくない。もがいてみたい」

「……そうね」

隣にいたルールーに視線を合わせることなく話した。



「サクラ殿」

後ろから聞き覚えのある穏やかな声が聞こえる。

「シーモア老師……」

振り向けば正直今は会いたくない人……シーモア老師がそこに立っていた。
共も付けずに。

皆はシーモア老師の姿を確認すると身構え、アーロンさんは私を庇うように背後に隠す。

「おやおや……嫌われたものですね……」

肩を竦めて首を傾げるシーモア老師。
そう簡単には信用してもらえないよね……

「まずは謝りましょう。ユウナ殿、そしてガードの皆さん、先程は大変な御無礼を……
しかし、やはりもう一度サクラ殿を見たくて来てしまいました」

「今はお前のものではない」

「それは存じ上げております。しかし、いずれは私に振り向いて頂く予定ですので……それまでサクラ殿を宜しくお願いしますよ、アーロン殿」

「言われずともサクラは俺が守る」

アーロンさんとシーモア老師はお互い鋭い視線をぶつけ合いながら私のことを話している。
その視線の間にはバチバチと火が爆ぜていた。

「サクラ殿は……こんな私の為に泣いてくれました。そのような方に辛い思いはして頂きたくはないのですがね……」

「……」

「しかし、サクラ殿が選んだのは貴方だ。最後の刻までどうぞ良い想い出を作ってあげてください」

「……ふん」

最後の刻……
シーモア老師はアーロンさんのこと分かってるんだ。
それを聞くと実感してしまう。
俯く私に老師は言う。

「サクラ殿、この先は今までとは比べ物にならない過酷な道です。何度も言いますがどうかお気をつけて……無事に戻ってきてくださいね」

「ありがとうございます……シーモア老師もがんばってください」

手を差し出す老師に応え、その手を取ればお互い微笑み合う。
種族差別のない世界……是非実現して欲しい。
そんな思いを込めて固く握手を交わした。


愛されてんなぁ……なんて皆の冷やかしを聞きながらナギ平原の中程まで進んだ。
シーモア老師の言っていた通り、ここまで来ると魔物の強さも桁違いだ。
疲弊した私達の視線の先に見えてきたのは旅行公司。

「ここで少し休んで行こうか」

ユウナの提案もあり、私達は旅行公司で一旦休息をとることにした。
私の記憶の中にはないけれど、ここは私も来たことがある場所。
そして、ブラスカ様、ジェクトさん……アーロンさんとお揃いのブレスレットを買った場所。

私がブレスレットを眺め、物思いに耽っていると後ろから肩に手を置かれる。

「何を考えている」

「アーロンさん……私達ここでこれ……買ったんですよね」

自分の手首を上げ視線を移せば、アーロンさんも手首を差し出す。

「そうだ。これはお前が選んだものだ」

「ふふ……何にも覚えてないなんて……嫌になっちゃいますね……」

そう言って私は自嘲気味に笑う。
ブラスカ様と旅をして、アーロンさんと恋をして……
きっと辛い思いもしただろう。

だけど……

覚えていたかった。

覚えていないことに悔しくて涙が出る。
それを見たアーロンさんは私の肩を抱いて皆から遠ざけてくれる。


「すみません……ありがとうございます」

私がアーロンさんの心遣いに感謝をすれば、アーロンさんから呆れたような溜め息が出る。

「本当にお前というやつは……謝ってばかりだな」

「あ……」

「お前がいくら忘れようとも俺は忘れない。俺はお前を愛し続ける」

「アーロンさん……」

「それに……」

「?」

「何度でもお前を振り向かせてみせる」

見つめられ更には頬に手を添えられ言われれば、ぼんっと顔が一瞬にして沸騰する。

優しい目。
吸い込まれてしまいそう……

ドキドキという自分の心臓の拍動を感じながらアーロンさんの隻眼を見つめる。
というか、その目から視線を外せなかった。

「ふっ……そんな熱っぽい目で見つめるな。
……我慢できなくなる」

「ふぇっ!?」

耳元に唇を寄せられて、それこそ熱っぽい声で囁かれたらドキドキしている心臓は更に跳び上がる。
……悶え死んじゃいそう。

「今はこれで我慢だ」

そう言って頬にキスを落とし、不敵な笑みを残して去っていく。

「うう……」

何か……私遊ばれてない?
こんなんじゃ皆のとこに戻れないよ……

顔の火照りは中々抑まらず、しばらく私はその場を動けなかった。



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