記憶の彼方


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26章


顔の火照りが抑まったのを確認し部屋から出る。
とりあえず聖ベベル宮の外へ出ようと歩き始めるが……

「どうしよう……」

迷った。

初めてこの聖ベベル宮の中に入ったんだもの、さっぱり分からない。
来る時はシーモア老師についてきただけだから道なんて覚えてない。

早くユウナ達と合流したいのに。

聖ベベル宮の中をうろうろし、そろそろ人に聞こうかと思っていた時見慣れた姿を正面に捉える。
会いたいような会いたくないような人。

「アーロンさん……」

「サクラ……?」

勝手に離れたこと怒ってるんだろうな……
自然に視線を逸らしてしまう。

「……シーモアは一緒ではないのか」

「あ、お仕事だそうで先に行かれました」

「で、お前は何をしている」

「……迷ってます」

「は?」

「外に出たいんですけど……」

「……」

そりゃ呆れられるのも分かりますけど、私だって困っておるのです。

ベベルの僧兵だったアーロンさんに案内され、やっとの思いで外に出た。
そこにはユウナをはじめ、皆集まっていた。

「ユウナ〜!」

「サクラ!」

「ごめんね、説明もしないで離れて」

「ホントだよ!ちゃんと話してもらうかんね!」

ユウナにハグして謝ればリュックのむくれた顔が見えた。
ユウナから離れ、皆の顔を見渡してから勢い良く頭を下げる。

「ごめんなさい!!」

「それよりさ……大丈夫だったか?」

「何が?」

「いや……その……」

きょろきょろと視線が定まらないティーダが歯切れ悪く言う。
その様子にシーモア老師に去り際にされたキスを思い出してしまった。
……私のファーストキス。

頬がみるみる紅潮する。

「あ……やっぱり?」

「なっ!何でもない!」

「その顔は何でもなくないよサクラ……」

すぐ赤くなるこの顔が憎い。

「あ、そうそう!今私、シーモア老師と何の関係もないから」

「え?もう別れたの?」

「別れたと言いますか……元々好きでついていった訳ではなく……」

「……老師を止める為、でしょ?」

ユウナに言われ頷く。
周りからは溜め息がちらほら。

「ホントにあんた達似てるわね」

「一人で無茶をする。キマリも心配した」

「ごめんなさい……」

それから自分は何故か分からないけど召喚獣と会話が出来ること、そしてシーモア老師の哀しい過去……彼がこのスピラそのものを破壊しようとしていたということ。
つい先程聞いた彼の本心を皆に伝えた。
謝罪の言葉を述べていたことも。




私の話を聞いてくれた皆はうつむき、黙っていた。

「シーモア老師のしたことは許されることじゃない……だけど、それだけを見てあの人を決めつけてしまったら彼も変われないと思ったの。彼は差別のない世界を目指したいって言ってくれた。その言葉は本物だと思う」

私は皆に分かって貰いたくて必死に言葉を並べた。

「サクラの言ってること嘘じゃないと思う」

「ああ、俺もサクラの言うことだったら信じる。……まぁ、いけ好かないのは変わらないけどな」

「ユウナ、ティーダ……」

「そうね、老師の気持ちを分かろうともしなかった私達も私達ね……」

「そんな酷いことされてたのかよ……」

「やな奴だけどさ……同情しちゃうね……」

「ルールー、ワッカ、リュック……」

キマリやアーロンさんは言葉を出さなかったが、皆に私の気持ちは伝わったようだ。

「もうシーモア老師は大丈夫。スピラに危害を加えるような人じゃない。……ということで、私はユウナのガードに戻ります。ご迷惑おかけしました」

「うん、また宜しくお願いします」

もう一度深く頭を下げれば、ユウナも私にお辞儀をする。
皆も頷き微笑む。

「よし!じゃあこの寺院でお祈りだな!」

ワッカが次の目的を気合いを入れて言えば、「お〜!」とティーダとリュックの返事が続く。
話が一段落したところで、聖ベベル宮から出てから全く声を出していないその人を振り向く。

「アーロンさん……」

「行くぞ」

「あ、はい……」

怒ってるのかな……
素っ気ない返事ばかり……
シーモア老師の事がすっきりしたというのに。
心が晴れない私は最後尾を歩き、祈り子の間へと向かった。


無事バハムートの祈り子様に力を借りることが出来たユウナは、ナギ平原へ向かうため再びマカラーニャの森へと進む。

「もしかしてユウナちゃんかい?」

マカラーニャの森に差し掛かろうというところでご年配の女性に声をかけられた。

「おばさん……!」

10年前にこのベベルで見たことのある顔だった。
けれど、よく覚えていない。

「この人はね、私がベベルにいた時にお世話になった人。父さんが旅に出て、一人になった私の面倒を見てくれたんだ」

「あ、そっか。だから私もお見かけしたことがあるんですね」

キマリが来てベベルを旅立つ時にお会いしたんだ。

「ねぇ、ちょっとお話してきていい?」

「うん、もちろん。ベベルにはユウナの知ってる人が他にもいるはずだし」

「そうね、マカラーニャの森で待ってるわ」

故郷に戻ってきて懐かしい顔に会えて、それで素通りさせるなんて見るに忍びない。
「キマリはユウナの側にいる」と言うキマリをユウナの供に付け、私達は先にマカラーニャの森で待つことにした。



―――――


ベベルから出て少し進めばとっても綺麗な泉に出た。
ここには魔物がいないようで、皆それぞれ体を休めていた。
キラキラした植物のようなものを見つめていると心が洗われるようだ。
あれからアーロンさんは私と話してくれない。
誰にも聞こえないように溜め息を一つつく。

「あのさ……」

溜め息気付かれたかしら?と思って声の主、リュックを見る。
だけどリュックの視線の先は私ではなく地面。
その視線を上に上げて皆を見渡しながら話し始めた。

「皆に話しておきたいことがあるんだ」

「改まってどうしたの?」

「召喚士が消えるなんて話……覚えてる?」

色々ありすぎて忘れかけていた。
前にイサールさんから聞いて以来、あちこちでそんな話を聞いていた。
最近では、ドナさんが見つからないなんてバルテロさんが言ってたっけ。
まぁ、関係あるかは分からないんだけど。

「あれさ……うちらアルベドがやってんだよね」

え?
え!?
アルベド族が召喚士を誘拐している!?

「お前ら……!」

ワッカは頭に血が上りそうだ。

「ちゃんと理由があるんだよ!」

「理由?」

「うん……アルベドはね、召喚士を保護してるの。死なせたくないから……」

「ああ……」

なるほど……
旅を止めて!なんて言われて止める召喚士は数少ないだろう。
皆そんな生半可な覚悟で召喚士になるわけではないのだから。

「んで、さらったってわけか」

「うん、分かってもらえないかもしれないけど……」

「理屈はわかるけどよ……」

私達だってユウナに旅を止めさせたいのは山々だ。
出来ることならユウナを犠牲になんてさせたくない。

「俺はイマイチわかんないんだよな。旅で死ぬかもしれないからって誘拐はやりすぎじゃないか?だって召喚士が旅しなきゃ『シン』は倒せないんだろ?心配なのは分かるけどガードもついてるしさ、ガードがしっかり守っとけば召喚士は死なないって。なあ?」

同意を求めるような目が私に向けられる。
召喚士はガードが守れば死なない……
それは究極召喚を得るまでであって、究極召喚を行ったら……
その事実を口にするのが怖くて、私はティーダから目を背けてしまう。

「なあ!」

私から同意を得られなかったティーダは他のメンバーに同意を求めるが、誰も答えてくれない。
皆いつか来るその時の覚悟が出来ていないんだ……
だから、言うのが怖い。
認めたくない。

「何なんだよ……そんなに危険な旅なのか?召喚士を守るためにガードがいるんだろ?それなのに無理やり旅をやめさせるなんてさぁ」

「やめなきゃダメなんだよ!」

リュックの大きな声にティーダは驚き、私達も何も言わずにリュックを見る。


少しの沈黙の後、リュックが話し始める。

「このまま旅を続けて……ザナルカンドに行って……『シン』をやっつけても……その時……ユウナは……」

言葉を詰まらせながら。
誰もが承知して旅を始めたはずなのに、それでも認めたくない事実。
それを遂に言葉にする。


「ユウナ、死んじゃうんだよ!!」


リュックの悲痛な叫び声に胸が痛いほど締め付けられる。
歯を食いしばって足元を見つめていた。

「キミ知ってるよね?召喚士は究極召喚を求めて旅してるって!ユウナから聞いたよね!!究極召喚なら『シン』に勝てるよ?だけど……だけど!あれ使ったら召喚士は死んじゃうんだよ!『シン』を倒しても一緒にユウナも死んじゃうんだよ!!」

リュックは今まで私達がティーダに言えなかった真実を涙ながらに伝えた。
ティーダは一時の後、肩を震わせ声を震わせて言った。

「知らなかったの……俺だけか?知らなかったの俺だけかよ!俺だけか!何で隠してたんだよ!」

その声には怒りも混じっていた。
そんな大事な事実を何故隠していたのかと。

「隠してたんじゃねぇ」

「言葉にするのが……怖くてね」

「笑って旅するのがユウナの望みなんだよ……」

「ぬあっっっ!!」

やり切れない絶望感にティーダは感情に任せて地面を殴る。
何度も、何度も……

「サクラ、ルールー、ユウナのこと妹みたいに思ってたんじゃないのかよ!ワッカもそうだよな!どうして止めないんだ!」

「止めなかったと思うの!?」
「止めなかった訳ないじゃない!!」

ルールーと私の声が被る。

「ユウナの……意思なのよ……」

「あいつはみんな承知の上で召喚士の道を選んだんだ。『シン』と戦って死ぬ道をよ!」

どれ程ユウナを止めただろうか。
それでも彼女の覚悟は変わらなかったんだ。
あの時の私達の絶望感を今ティーダは感じているのだろう。

「そんなの絶対おかしいよ!皆の幸せの為だからって……召喚士だけが犠牲になるなんて!」

確かに人の命の上にある幸せなんておかしい。
だけど、今『シン』を倒す方法は他にないんだ……
今『シン』が現れている以上、誰かがやらねば被害は増えていくばかり。
『シン』は生まれ変わる……
その度に召喚士の命が捧げられている。
せめて、『シン』を消滅させることが出来たら……
エボンの教えでは罪を償えば『シン』は消えるなんて言っているが、もう1000年経っている。
正直それだけで『シン』が消滅するなんて考えられない。
……ワッカに言ったら怒られるだろうけど。

消滅……
そういえば、前に夢でエボン様が言ってたっけ。

『私を消滅させる方法を思い出してほしい』

何か関係があるんだろうか……



考え事をしていると、俯いていたティーダが声を出した。

「俺……俺、ユウナに言っちゃったぞ!早くザナルカンド行こうって!『シン』を倒そうっ……!倒した後の事もいっぱいいっぱい!!あいつの気持ちも何にも知らないでさぁ!なのに……ユウナ……あいつ……笑ってた」

知らずに言ったことの後悔。
涙声で叫ぶティーダに息が詰まり、その場が沈黙に包まれる。

暫しの沈黙の後、私は口を開いた。

「ユウナはさ……きっとティーダに救われてると思うよ?」

「……何で?」

自分はユウナを傷つけた、そう思っているティーダは不満そうに言う。
自分だけがその事実を知らなかったというのもあるだろうが。

「ユウナ、自然に笑ってた。作り物じゃない、ホントの笑顔。何も知らないティーダだからユウナと普通に接してくれた。召喚士ユウナじゃなくて、普通の女の子ユウナに。それがユウナには嬉しかったんだと思うよ」

ユウナはまだ17歳だ。
普通だったら男の子とお話をして笑い合って、仲良くなって……恋をして。
そんな年頃の女の子なんだ。
それなのにこのスピラの為に自らの命を捧げようとしている。
周りからはブラスカ様の娘として『シン』を倒せるだろう、ナギ節を作ってくれるだろうと期待の目を向けられ、ただのユウナとして見てくれる人はいない。
そこにスピラのことを何も知らない少年が現れ、単純に思ったことを言い合えた。

「そうかな……でも俺、ユウナに謝らなくちゃ……何にも知らないで勝手なことばっか言って追い詰めて、悲しい思いさせて……謝らなくちゃいけないんだ……」

「そっか……」

少し暗くなってしまった雰囲気のその場所に明るい声が聞こえた。

「あ、皆いたいた!お待たせしました」

ユウナは少し泣いたのか、目が赤くなっている。
故郷の人達との別れもさぞ辛かっただろう。
無理して笑っているのが分かる。

「ん?皆どうしたッスか?」

「ユウナ……俺話したいことがある」

「話したいこと?」

「私達はさ、向こうで待ってるから」

「え?え?何で?」

ここはティーダと二人きりにさせてあげようと、私達は顔を見合わせながら泉をあとにして野営地へと向かう。
神妙な面持ちのティーダと戸惑うユウナを残して。

野営地へ向かう別れ道で私は誰かに手を引かれた。

「わっ……」

「お前はこっちだ、俺も話がある」

「へ?」

何故か皆から引き剥がされ、私はアーロンさんと二人きりになることに。

怖いんですけど……



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