記憶の彼方


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24章


ワッカと気まずい雰囲気になった私達はアーロンさんの言動に救われた。

「リュック!これは動くのか」

「うん!」

エボンを信仰していないらしいアーロンさんは機械に何の抵抗もないようで、アルベド族が残していったスノーバイクが動くかどうかリュックに確認していた。
私もリュックに付いてアーロンさんのところへ行く。
……正直、ここまでアルベド嫌いを全面に出しているワッカは苦手だ。
そしてワッカは一人で歩いて寺院への道へ進んで行く。

「ワッカ……」

「放っておけ。簡単には受け入れられまい」

「そうですね……」

ワッカの場合、チャップのこともある。
だから余計機械を受け入れられないんだ。

「……ごめんね」

「あんたが謝ることないわ」

「そうだよ、何も悪いことなんかしてないんだから」



スノーバイク3台の動作確認を終えた私達は、ティーダの元気な声で出発となった。
やっぱり……とは思ったけど、私はアーロンさんが運転する後ろに乗っている。
「乗れ」と眼光鋭く言われたものだから断れなかったのだ。

「さて邪魔が入ったが、改めて話を聞こう」

やっぱりそれが目的デスヨネ。
前を向いたまま私に質問する。

「グアドサラムでシーモアに何を言われた?奴はお前の何の返事を待っている?」

「えと……ですね……簡単に言いますと……告白……されました……」

「な……!?」

これ以上隠していても無意味だと思った私は口ごもりながらも本当のことを答える。
相当驚いたのかハンドル操作を疎かにしたアーロンさんによってスノーバイクが左右に揺れる。

「わっ……」

「……ユウナに結婚を申し込んでおいて、何のつもりだ」

「ユウナとの結婚はスピラの為、立場上のこと……そう言ってました」

「……(つまり、サクラのことは本気ということか)」

「私、どうしたらいいかわからなくて……」

「悩んでいるということは奴に気がある……そういうことではないのか?」

「確かにシーモア老師は若くして老師になられた方ですし、尊敬はしてますけど……好きとかそういうのではないと思います」

だって私の好きな人は……

「ならば断れば良かろう」

アーロンさんの顔を見ようと自身の顔を上げようとしたが、それよりも早く正論を言われる。
それはそうなんですけど……

「……シーモア老師の召喚獣の言葉が……」

そう、あの言葉が気になるのだ。
あの言葉がなければ簡単に断れていたかもしれない。

「召喚獣の言葉?お前は召喚獣の言葉が分かるのか?」

「あ、はい。そうみたいです」

そうだよね。
召喚士でもない私が召喚獣の言葉が分かるなんて不思議だよね。
自分でも何で話せるのか分からないんだもの。

「それで、奴の召喚獣は何と言っていたんだ」

「哀しいのはシーモア老師……この子を変えてしまったのは私……」

「……」

あの言葉が頭から離れないのだ。
私が気にする必要なんてないのかもしれない。
でも召喚獣と話せる私だから出来ることがあるんじゃないか。
そう思ってしまう。
自惚れかもしれないけど……

「余計なことに首を突っ込むな。お前の性格だ、断りきれず泥沼にはまっていくぞ」

う……
よく分かってらっしゃる。
でも……放っておけないよ……

それからは無言で寺院まで走った。
アーロンさんに話したからといって考えがまとまったわけではなくもう一回シーモア老師の召喚獣と話してみたい、そればかり考えていた。


―――――


「お待ちなさい!」

マカラーニャ寺院に着けば、リュックを見た門番に止められてしまう。

「ここはアルベド族が来て良いところではありません」

やっぱりアルベド族がガードになるって大変なことだよなぁ。
頭の硬い寺院の方に少しイラッとしてしまう。

「この娘はユウナのガードだ」

伝説のガード様がフォローしてくれる。
門番が信じられないといった様子で引いているが。

「あたしはユウナを守りたい。誰にも文句は言わせない」

強い口調、強い眼で言うリュック。
その毅然とした態度に門番が固まっていると、

「そういうことだ、ガードに血筋は関係ない」

またもやアーロンさんが力を貸してくれる。
伝説のガード様に言われては断りきれないのだろう、門番は渋々通してくれた。

「やな感じ」

「サクラもやっぱりそう思うか?俺もそう思う」

ぼそっと言った独り言にティーダが反応する。
このスピラでこんなことを言っては反感を買うがこの子にスピラの常識はない。
ティーダと目を合わせて苦笑する。


マカラーニャ寺院の大広間。
トワメルさんの姿がそこにはあった。

「おお、ガードの皆様。先程はありがとうございました。皆様のおかげで無事にユウナ様をご案内出来ました」

感謝の言葉を続けるトワメルさん。
そこにユウナの姿はない。
恐らくまずは試練の間に向かったんだろう。
結婚しても旅を続けるということは召喚獣の力を借りなければならない。
この寺院の召喚獣に祈りを捧げに行ったに違いない。

試練の間に向かおうとした時、

「ジスカル様!!」

悲鳴にも似た叫び声に動きが止まる。
ジスカル様……?
ユウナが異界送りをしたはずだけど……
只事ではない様子に声のする方へと急ぐ。

「ユウナ様のお荷物のスフィアが……」

「スフィア……」

雷平原でティーダが言っていたスフィア?
ユウナが見せられないって言ってた……

「これがユウナを悩ませる原因……だな」

ユウナの荷物の中にあったスフィア。
それを皆で見ることにした。



『わしがこれから言うことは曇りなき真実。グアドの誇りに賭けて誓おう。心して聞いて欲しい。我が息子、シーモアのことだ』

スフィアに映し出されたジスカル様はそう前置きをして話し始めた。

『あやつが何を考えておるのかわしにも解らぬ。見えるのはただあやつの胸に燃え盛る黒い炎。あやつはエボンを利用し、グアドを利用し、召喚士を利用し……このままでは……スピラに災いをもたらす者と成り果てるだろう……』

やっぱりシーモア老師には何かあるんだ……

『わしは……まもなく、死ぬ。我が子によって殺められ、死ぬ』

その言葉に驚愕する。
皆目を丸くしている。

『……それは受け入れよう。わしがふがいないばかりにあやつは苦しみ……歪んでしもうた。わしはシーモアとあれの母親を世間から守ってやれなかった。わしに課せられた罰としてこの死を受け入れよう……しかし……これを見る者よ……シーモアを止めてくれ。息子を……頼む』

そこで映像は途切れた。
ジスカル様はシーモア老師に殺された?
シーモア老師はジスカル様によって歪んでしまった?
過去に何があったんだろう……

でもハッキリしたのは今のシーモア老師は何かとても危険な考えを持っているということ。
このままではユウナが危ないかもしれないということ。

「こういうことか」

「ユウナ大丈夫かな?」

「ふっ……ここまで大事だとはな」

アーロンさんはシーモア老師を危険視していた。
その予想は当たっていたということだ。
それよりもユウナの身に危険が及ぶかもしれない。
そう思った私は皆を促した。

「行きましょう!!」

「でも相手はエボンの老師だぞ!?」

徒歩でマカラーニャ寺院に到着したワッカが衝撃の事実を受け入れられず狼狽えている。

「んあああ!じゃあワッカはここにいろよ!」

ティーダが苛立ちを隠せない様子で叫ぶ。

「ワッカ、行こう。話を聞いてみよう」

「どうなっちまってんだよ……」

ルールーが声をかけてくれるがリュックのこともあってか完全に頭が混乱している。
そんなワッカを横目に私達は祈り子の間にいるであろうユウナの元へと急いだ。

「相手の出方次第では……やる」

試練の間に入るとアーロンさんは覚悟を決めろとワッカや私達に言う。

やる……
戦うということ……
私の返事を待っているあの人と……

複雑な気持ちになりながらもユウナの無事を祈りながら進んだ。





「シーモア!!」

祈り子の間の手前、控えの間に着きシーモア老師の姿を確認するとティーダがいきなり叫んだ。

「お静かに。ユウナ殿が祈り子と対面中です」

「うるせぇ!!」

祈り子の間の扉の前でユウナを待ってるシーモア老師に向かってティーダが怒りに任せて言葉を浴びせる。
すると、その扉が開きユウナが出てきた。

「!!どうして!?」

「ジスカルのスフィア見たぞ!!」

「……殺したな」

極論を突き付けるアーロンさん。

違うと言って欲しかった。
理由を言って欲しかった。

だけど、シーモア老師の返事は……

「それがなにか?」

何の問題があるのか、そう言いたそうな声だった。
その言い方に愕然としてしまう。

「もしや……ユウナ殿もすでにご存知でしたか?」

ユウナは肯定すると私達の方へ駆け寄ってくる。

「ならば何故私の元へ?」

「私は……あなたを止めに来ました」

「なるほど……あなたは私を裁きに来たのか」

「シーモア老師……」

「サクラ殿……」

そこで初めて私は口を開いた。

「何故ですか……?何故ジスカル様を……!」

「……あの時のお返事は今頂けますか?」

あんな事実を知った後で「はい」などと言えるだろうか。
私は言葉を飲み込んだ。
差し出された手を取ることなく、一歩後ずさってしまう。

「……残念です」

そして、ユウナや私を守るかのようにティーダ達は前に出る。

「なるほど……命を捨てても召喚士を守る誇り高きガードの魂……見事なものです。よろしい、ならばその命捨てて頂こう!」

完全に敵意を剥き出しにしたシーモア老師は戦闘体制をとる。

「シーモア老師!ガードは私の大切な同士です!その人達に死ねと言うのなら、私もあなたと戦います!」

ユウナも戦う覚悟を決めたようだ。
私は……まだ迷っている。

「シーモア老師!」

ワッカもまだ混乱しているようでシーモア老師に声をかけるが、

「覚悟を決めなさい」

シーモア老師はぴしゃりと言い放つ。
そして、

「私の闇を知るがいい……出でよ、アニマ!」

ルカで見たあの召喚獣が目の前に現れた。



―――――


やっと……会えましたね。

『あなたはこの間の……』

あなたとお話したかったんです。
……シーモア老師のこと。

私は彼を救いたい……

『……ありがとう。あの子はジスカルと私の息子……』

じゃああなたは……

『シーモアの母親よ。あの子はヒトとグアドの間に生まれたことで酷い差別を受けてきたわ。私と一緒に島流しにもされた……』

ひどい……

『それでも『シン』を倒すことが出来たら皆がシーモアを認めてくれる、そう思ったの。だから私はシーモアとザナルカンドへ旅をした。だけど、そこで待っていたのは……』

……あなたはシーモア老師の為に召喚獣となったのですか?

『そう……だけど、それはただ彼を苦しめるだけだった。私を失ったあの子は流刑地で一人過ごしたわ……何年も……ジスカルは私の願いを聞き入れてくれて、ザナルカンドへの旅を助けてくれた。だけど、そのせいでシーモアは一人に……』

だからシーモア老師はジスカル様を憎んだ……

『私が望んだことなのにね……シーモアと一緒に居続けることが彼にとって一番だったのかもしれない。それなのに私は……』

そうだったんですね……
シーモア老師はあなたの事が全てだと、そうおっしゃっていましたから……
余程お辛かったでしょうね……

『ええ……シーモアはあなたのことを好いているようですね』

あ……はい。
嬉しいことにそうみたいです……

『あなたさえ良ければ……シーモアを支えてはくれないかしら』

……私に出来ることなら……

『ありがとう……意識が戻ったらシーモアを止めて。早くしないと私はあなたの仲間を傷つけてしまう』

分かりました。

『お願いね……』



―――――



目が覚めると私はアーロンさんの腕の中にいた。

「サクラ!?大丈夫か?」

「アーロンさん……」

ほっとした様子のアーロンさんを見上げ、意識を現実へと引き戻す。
シーモア老師の方へ向けば先程まで私が話していた召喚獣、アニマが仲間達と対峙している。
早く行かなきゃ……!

「アーロンさん!ごめんなさい!行って来ます!」

「何……!?」

私はアーロンさんの腕の中を飛び出し、シーモア老師の元へと走って行った。



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