記憶の彼方


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15章


暖かい……

お腹の辺りがぽかぽかしてる。
何が起こっているのか確認しようとゆっくり目を開ける。

「サクラ!!」

「ユウ……ナ……?」

ああ、そうか。
チョコボイーターから攻撃を食らって崖から落ちたんだっけ。
ユウナが傷ついた私のお腹に手を当てて必死に回復魔法をかけてくれていた。

「ごめんね、ユウナ……魔物は?」

「サクラが落とされた後、アーロンさんが物凄い勢いで反対側の崖まで追い詰めて落としちゃった」

流石だなぁ。
それに比べて私ときたら……
二日酔いで動けませんでした、なんて口が裂けても言えない。
少し気を失ってたお陰か、いくらか気分も回復してきた。

「ん、ありがと、ユウナ」

「もう大丈夫なの?顔色悪いよ?」

「大丈夫大丈夫」

これ以上迷惑をかけちゃいけない。

「そういえば皆は?」

今崖の下にいるのは私とユウナだけ。

「上で待ってると思うよ」

上?
君はどうやってここまで来たんだい?
私の聞きたいことが分かったのか、ユウナは微笑むとヴァルファーレを召喚した。

あ、成る程。

「ヴァルファーレお願い」

ユウナにそう言われヴァルファーレはひとつ嘶くと、私とユウナを優しくその背に乗せてくれる。

そして、ふわりと翔んでみせた。

「わぁ!すご〜い!」

その感覚に一気にテンションが上がる。

だけど楽しい浮遊体験はあっという間に終わり。
私達は皆の元へと戻った。

「サクラ!大丈夫っすか?」

「うん、ゴメンね……」

心配そうに声をかけられるが理由が理由なだけにまともに目を見られない。

……アーロンさんのは特に。

その時、またもや頭痛と吐き気が襲ってきた。
さっきのテンションはどこへやら。
堪らず口元を押さえ下を向く。

「お、おい……大丈夫か?」

私の様子にアーロンさんが近寄ってきてくれる。

「少し気持ち悪いだけです……」

「サクラ……まさか、つわりとかじゃないわよね」

ルールーの言葉にそこにいた全員が固まる。
咄嗟に否定しようと体を動かした。

……が。

あ、やばい。出そう。

胃内にあったモノが喉元まで上がってきてしまった。
私は口をおさえ、そのまま旅行公司に飛び込んだ。


トイレで胃の中のものを吐き出すと、いくらか落ち着いた。
一息ついて、旅行公司の外へ出る。

するとまず扉の近くにいたアーロンさんと目が合った。
しかしすぐに目をそらされてしまう。
はぁと小さく溜め息を吐きながら周りを見ると、少し離れた所で皆ソワソワし何か話しているよう。

「あの……」

「そうだよな。サクラだっていい歳だし、ない訳じゃないよな」

あの?ワッカさん?

「そうよ。あんなに可愛いんだから彼氏の一人や二人いたっておかしくないわ」

ルールー?


「……ツワリってなんすか?」

「おぉい!」

全く気付いてもらえなかった私は声をあげた。

「サクラ……お腹の子大丈夫……?さっき殴られて……」

ユウナは泣きそうだ。
何を盛大に勘違いしているのか。

「お腹の子なんていないから!」

勝手に話を進めないで欲しい。

「あら、違うの?」

ルールー……恨むよ……。

「彼氏の一人や二人もいないから。ちょっと気持ち悪かっただけだから」

「彼氏いないの?」

ぐさっとルールーの言葉が刺さる。
この歳になっても彼氏の一人もいないなんて……

「……ほっといて」

「じゃあじゃあ、好きな人は?」

目を輝かせてユウナが身を乗り出してくる。
ガールズトークに花が咲くかと思ったが、

「くだらん。さっさと行くぞ」

それまで黙ってこちらを眺めていたアーロンさんがぴしゃりと会話を遮った。


好きな人……


その言葉にこちらに背を向けた紅い衣を見つめる。
あの人にもそういう人がいるんだろうなぁ……
背も高くて格好いいし、強いし、伝説のガード様だし……

「サクラ……」

「なぁに?ユウナ」

ユウナのほうを向けば何やら楽しそうににやついている。

「私、応援するよ♪」

「あぁ、そういうことね……私も応援するわ」

「へ?」

ぽかんとしているとワッカやティーダも近付いてくる。

「何だ何だ?何を応援するって?」

「女子だけの秘密で〜す♪」

「何だそりゃあ……」

「ね、ルールー♪」

「そうね」

そう言ってふふっと笑い合う。
私はといえば、自分でもまだ確信していない気持ちを女性陣二人に勘づかれてしまったと顔を赤くしていた。

「なぁなぁサクラ」

そんな私に話しかけてくるのはティーダ。

「な、なに?」

「ツワリって何だ?」

「……その話しはもう終わり!」


……何かもう疲れた。


―――――


チョコボイーターを倒してくれた御礼にと、旅行公司の店主リンさんがチョコボを無料で貸してくれるという。
しかし、今準備出来るチョコボは3匹だけ。
無料で貸して頂けるのだから文句なんか言えない。
キマリは歩くからいいと、チョコボに乗るのを辞退した。

「じゃあ2人ずつペアだな」

誰でも分かりそうな割算の答えをティーダが言う。
誰と乗るか。
こういうのは言ったもの勝ちだ。

「私、ユ……
「ここは年齢順かな」

……何で?
ユウナと乗る!と言う前に、そのユウナに提案されてしまった。
またもや年齢が私を苦しめるのか……!
それじゃあ明らかにアーロンさんとじゃまいか!
もう既にユウナはティーダ、ルールーはワッカとチョコボに乗ろうとしている。
こんな醜態を晒した後にアーロンさんと2人乗りとか……
何言われるか分かったもんじゃない。
もしかしたら、もう呆れられて見離されるんじゃないだろうか。
最悪なことばかり頭をよぎる。

「……早く来い。乗らんのか」

「すっすみません!」

考え事をしていたら皆に置いて行かれてしまったらしい。
アーロンさんが不機嫌な声で私を呼ぶ。

うう……行きたくない。
けど行かなきゃ進めない。

チョコボの手綱を握ったアーロンさんの元へ、重たい足取りで向かった。


「……すみません、コレどうやって乗るんですか?」

チョコボに乗った経験のない私はこのふわふわの物体に戸惑った。
背の低い私にはちょいと高過ぎる。
アーロンさんは既にチョコボに跨っており、モタモタしている私を呆れた様子で見ている。

……どうしたらいい、この状況。

するとアーロンさんは、少し待っても一向に乗れそうにない私の両脇を持ち、まるで子供に高い高いをするような格好で私を持ち上げた。

(ええええぇぇぇ!?)

「走るぞ。振り落とされたくなかったら掴まってろ」

そう言ってアーロンさんは私の手を取り自身の腰に手を回させる。
この抱きついている格好に、もう完全にパニック状態だ。
額をアーロンさんの背につける形で固まってしまった。

「……お前はこの10年、好きな奴は出来なかったのか」

「え?」

しばらくチョコボに揺られた所で、アーロンさんがぼそっと独り言か私への質問か分かりかねる言葉を発する。

「いや……なんでもない」

独り言?
しかし今度ははっきりと私へ向けての質問が飛ぶ。

「で、二日酔いか?」

「!?」

やっぱりこの人は分かっていたのか。
体が勝手に肯定ととれるようにびくっと反応する。

「図星か。あの程度の酒で二日酔いとはな……」

「すみません……」

「初めて飲んだんだ、仕方あるまい。勧めたのは俺だしな。だが、次は気を付けろ。何かあったら俺に言え」

絶対に怒られると思っていた私は拍子抜けしてしまった。
怒られるどころか優しい言葉で注意してくれる。
その言葉が嬉しくて回している手に力を込める。

「ありがとうございます……」

「……あまり強く抱きつくな。うまく操縦できなくなる」

「あ、すみません……」

私は腕の力をゆるめ、大人しくすることにした。
そんなこんなで、やっと仲間のチョコボの姿を捉えた。


「どうした?」


皆に追いつくとそこは街道の終点だった。
何やら検問が張ってある。

「検問でこの先に進めないみたいで……」

ユウナはことの経緯を説明してくれる。
召喚士まで通行止めとは只事ではない。
以前に出会ったドナも憤慨しているようだ。


「ミヘン・セッションねぇ……」


隊長らしき人が今回の作戦について誇らしく説明してくれた。
『本作戦の最大の特徴はアルベド人との共闘である』なんて言葉にワッカがぴくりと反応する。
私はいいことだと思うんだけど、どうもワッカはアルベドを毛嫌いしている。
いいも悪いもこの作戦が終わらないと先には進めないということか。
あ、でもこれで『シン』を倒すことが出来れば旅もここで終わりということ?
そしたらユウナと一緒にビサイドに帰れる。
……でもアーロンさんとはここでお別れ?

「……何を考えている?」

「あ……これで『シン』を倒すことが出来ればこの旅も終わりかなって」

「……『シン』はこんなものでは倒せん」

「え……?」

一度『シン』と戦ったことのあるアーロンさんだからこその確信。
倒せない……?
じゃあ今『シン』を倒そうって団結し、集まっている皆さんはどうなるの……?
このまま作戦を続けていたら本当に『シン』が来る。
そうすれば確実に犠牲になる人がいる。

「それじゃあ!アーロンさん、この作戦辞めるように言いましょうよ!」

アーロンさんがこの作戦は無駄だと、こんなものでは『シン』は倒せないと言ってくれたら皆思いとどまるかもしれない。

「言ったところで無駄だろうな」

「どうして……」

「……断言は出来んが、裏の理由がある」

「裏?」

「上の考えることだ、信用できん」

アーロンさんからそんな言葉が出るなんて……
エボンの教えを信仰している人達に反感を買いそうな台詞だ。
アーロンさんは寺院を信用していないのかな?
伝説のガードだというのに。


「またお会いできましたね、ユウナ殿。それから……」

その時、ルカで聞いたあの声が聞こえた。
声の主を確認すると、やはりシーモア老師。
シーモア老師はユウナを見た後、私を見ているようだった。
挨拶もしていなかったと慌てて自己紹介をする。

「あ、申し遅れました!ユウナのガードを務めております、サクラと申します!」

「そうでしたか、お務めご苦労様です」

その整った顔に柔らかい笑顔を乗せられればときめかない女子はいないんじゃなかろうか。
私も例に漏れず小さく心臓が跳ねた。

「それで、どうしましたか?お困りのようですが」

「それが……」

私は検問のほうをちらりとみやる。

「なるほど……」

それだけで事情を察してくれたシーモア老師は検問に近付いていく。

「お待ちしておりました、作戦司令部にご案内いたします!」

「その前に頼みがある」

シーモア老師が検問の方に交渉してくれているのが聞こえる。
そんな中、私はシーモア老師から向けられた視線に疑問を感じていた。
他にもユウナのガードがいるのに何で私に声かけたんだろう?
アーロンさんだっているのに……
そう思ってアーロンさんをちらと見る。
アーロンさんは検問で交渉してくださっているシーモア老師を見る……と言うより睨んでいると言ったほうが正しいような視線を送っていた。
よっぽど寺院が気に入らないのだろうか。

「さあ、どうぞ」

頭の中で考え事をしているとシーモア老師の促す声が聞こえた。
あっけなく許可を出してくれたようで、交渉に時間はかからなかったようだ。

「あ……ありがとうございます」

こんな簡単にいくとは思っていなかったのか、ユウナは呆気に取られたようにお礼を言った。
それを聞いたシーモア老師はミヘン・セッションの為だろう、先へ急いだ。

「ユウナ行くわよ」

「う、うん!」

ルールーに促され先へと進む。
すると、ティーダが不機嫌そうな声で吐き捨てた。

「えっらそうなヤツ」

「偉そうじゃなくて、ほんとに偉いんだよ」

エボンを信仰しているワッカが誇らしそうにティーダを窘める。
そうなんだよね。
すごい人と話してるんだよね、私達。
「ううー」と気に入らないといったような表情のティーダ。
まぁ、お偉いさん苦手な人はいるものね。

「サクラ」

先へ進もうとすると急にアーロンさんに話しかけられる。

「はい?」

「俺の側を離れるなよ」

「へ?」

それってどういう……?

「ティーダと同じだ。俺も奴が気に食わん。何をしてくるか分からんからな」

「はい……」

シーモア老師、穏やかでいい方だと思うんだけどな。
でもアーロンさんが言うんだ、何かきっとあるに違いない。
私は身を引き締めた。




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