忌み嫌われてきたこの色。この目と今は黒染めしている髪。

綺麗な神田の瞳にぽーっと魅入った

透き通った灰色のその瞳。まじまじと見つめる。外国の血でも入っているのだろうか。それならばうなづける、その色、その顔立ち。確かに日本人離れしたワイルドさだ。



「憂…可愛い…」


神田の発言に自分が魅入っていたことに初めて気が付いた。
と、いいますか…こいつ今…可愛いって……言ったか?
アホなのか。
それでも、先ほどまで威嚇していた表情を緩め微笑むその表情に俺は耐えられなかった。イケメンに耐性はないのだ。


「と、とりあえず返せ!」


照れたのが悔しいやら恥ずかしいやらで誤魔化すように話をズラした

と言うよりは戻した




「んー。じゃあ取り引きしようぜ」


「取り引き?」


取り引きと言われて良い予感なんてしない
むしろ大抵の人間は嫌な予感がするだろう



「俺は眼鏡返すから憂は俺のこと名前で呼んで」

「…怜」


嫌な予感がしたのでもっと無茶難題を言ってくるかと思ったが、大したこと無かった
別に名前くらい安上がりだ。


「、っ…」


神田は口に手を当てて固まった



そんな怜には気づいてない俺は早く眼鏡を返せと喚いた



「おいっ」


下を向きながらいっこうに眼鏡を返してくれる素振りを見せない怜をのぞき込んだ

するといきなり抱きしめられた


「うわっ…」

「可愛い…」

唐突なその行動に俺は対処ができず小さな抵抗をしてはみるが彼の前では無意味だった


「い、意味わかんねぇっ。離せよっおいっ…」





ぼそりと耳元で離されて抵抗が弱まっていく







耳強い奴って滅多にいないよな…


「あんた、どーしたん「怜」

「…?」

「怜って呼べよ」

「れ、怜?」




一体どうしたんだ…。
さっきまでの刺々しさがなく柔らかくなった。
この短時間に何があったというのか。


「憂…」

「な、なんだよ」



ハッとして自分のいるところを思い出した。
ここは玄関だ。
そう、俺が自分の部屋に入ってきて、そして同室者が…こいつで…それで。今に至る。

誰がこんなことを想定した?
思いっきり想定外だ



「てかっ離せって!話ならリビングでもっ」

「憂を近くで感じたい」


「っ!なにいってんのさっ」



「憂…。本気で俺と付き合わないか?」



静かに、怜は言った。
本気…なのか…?
それでも、俺の答えは動かない


「…やだ」




「…ちょっとは考えてはくれよ」
「俺は…ノーマルだし、平々凡々に…」


「俺が親衛隊を黙らせる」

「…怜、のことよく知らないし。ほんとに」



男に告白されてどうしたらいいかわからない…
ふざけてる様子もなく真っ直ぐ灰色の瞳が俺を見つめる


でも俺はノーマルなわけで…



「俺が…嫌いか?」


「っ…それは…ない…と思う」





そうだ
嫌いじゃない


痛いことされたし
告白とかされちゃったけど


俺、怜のこと嫌いじゃない…


お前は自分に真正面からぶつかってきたやつが初めてだと言ったけど、俺のこの瞳を見ても気味悪がりもせずこうやって好意をストレートに示してくる人は…ほとんどいなかった。だから、やっぱり嫌いじゃない。

「じゃあ…っ」

「でも俺はノーマルだ」


「…わかった」

「怜…」


わかってくれたか…






「嫌じゃないってことは見込みがあるってことだよな?」

「は?」

「どこまで嫌だ?」

「え…」


え、何…どんだけポジティブなわけ?降られたら諦めるのが普通じゃない?
友達になりましょーじゃないの?
あれ?それが普通だと思ってたんだけど。違った?

ていうかこんな派手な友達もちょっと…。


「ヤるのは駄目か?」

「…、当たり前だ!」


なにがどうなってヤるのオッケーだと思うんだ?
こいつやっぱりホモか。ホモなのか。


「これから一緒に住むんだし!仲良くしよー『ゴンッ』






そんなホモに神の裁きが下った

多分かなり痛い…






「…」





…俺たち玄関にいたんだよね。

玄関って、あれだよね。人とかきたらね。うん。
ドアとか開きますよね。
まぁ、こんなとこずっといたからね。

怜、痛そうだね。
結構な罰だ


その鈍い音の後に明るい声がした



「あれー?ごめーん。怜がそこにいると思わなかったしさー」

「てめぇっ!ノックくらいしろ!」


ひょっこり俺よりちょっと小さい男の子が出てきた
見たことある気がするけども、名前はわからない。
きっとそれなりに顔が整っているからそれなりの子。


「てか鍵かけてないのが悪いんだよ?…あれ?どちら様?綺麗な人だねー!怜、どこで見つけたのー!初めましてー!僕、水野真哉です!怜の唯一の友達だよ?よろしくね?」


俺を見て目をきらきらさせながら息継ぎもしないで一気にまくしたてた。
怜の唯一の友達って…怜も、友達いないんだなーなんて…ちょっと親近感湧いたよ。ちょっとだけね。


「あ、初めまして…田中憂です」
「田中憂?へー!んー…じゃあ、憂ちゃんね」

みんな名前呼びか
しかも…ちゃん付け?

まぁ。いいけど。
名前で呼ばれることに慣れていないから、少しくすぐったいけど。
ちゃん付けなんて、呼ぶ人本当にいなかったし。


「おいっ真哉!」

「なーに?ちょっとくらい話させてくれてもいいじゃん。品定め品定め」


おい。品定めってどいうこと。ねぇ。



「駄目だ!、憂」

「え?何?」

「真哉の顔が少し可愛いからって油断すんなよ?」

確かに水野くんは可愛い。
目がクリクリーっとしててふわふわしてて肌ももちっとしてて触ってみたいぐらい。きっと、襲われかけたこととかあるんだろうなってそう思うほどに。


「なに?誉めてんの〜?」

「こいつはこんなんで肉食獣だ」


「肉食…獣?」

言ってる意味がちょっと…わかりづらい。
強いってことなのかな…だったら。確かに意外だな。でも、強くなくちゃここまで無事でいられないだろうし。そうか、


「違うよーっ」

水野くんが大きく手を使って否定した

「タチなだけだよ?」

「え…」

そんな肉食ってほどえげつなくないよーと水野くんは言っているが問題はそこではない。こ、こんな可愛いのに、相手を掘る立場でいるという……えぇ…嘘だ…。



「真哉は憂に近づくな」

「えーずるいよ!怜だけ独り占めなんて許せない!」

「はっ!俺は本気だからなっ」

「えーっ!!!怜本気なの!」


何を自慢したいのかわからない怜に水野くんは驚いていて、その間に俺は怜から無事に取り返した眼鏡を装着した。


「あ、憂ちゃん眼鏡つけるとだいぶ印象変わるね?」

「そうかな?」

「うんっ!綺麗な顔が半減した!」

「元がそんなんじゃないよ」

「眼鏡取った憂ちゃんめっちゃ綺麗で可愛かったよ」

「水野くんの方が可愛いよ?」

「だめ」

「え?」


可愛いは禁句だった?
そうだよな…仮にも男だし。
言われてうれしいもんじゃないしな…


「真哉、って呼んで?」

彼はそういいながら俺の腰に手をまわした。
この動きは何か逃げなくてはという気持ちを駆り立てる。

「真哉、くん?」

「真哉。呼び捨てにしてくれたら嬉しいな」


どんどん真哉は手に力が籠もりだんだん体の密着度が高まる
手の動きが妖しさを伴う
どんな意志を持ってこの手が動いているのか。

どうにか逃れようと俺は違う話題に切り替えた

「あ、怜は?」

さっきまでいたはずなのに。いない。

「怜?知らなーい、今は僕だけを…見て」


艶のある声を耳元で喋られると腰あたりがむずがゆくなる
というか、なんだ。さっきと声のトーンが違う。
そういうギャップは俺に発動しないでほしい。


「ま、真哉?」

「なに?」


笑顔を向けられた
その笑顔と俺の顔の距離はわずか3センチ
通常の距離じゃない


「ち、近くない?」

「そう?、眼鏡…じゃまだね」

「っ、」

「あれ?」


真哉の視線が俺の目から離れた
少し、ほっとした。

が、

「どうしたの?これ」



トントンッと指を指していた先はさっき怜が噛んだところで少し痛みが走った。
まだ傷は閉じきっていないなようだった。


「あぁ、それは…怜が」

「怜?」

「うん」


「痛そうだね」

「まぁ、でも大丈夫」

「内出血してるし若干血でてるし、噛んだのかな…。消毒…してあげるね?」



満面の笑みを向けられて、消毒液持っているのか?なんて疑問が浮かんだ次の瞬間鋭い痛みが体を走った。



「い゙っ!まっ真哉っ?」

「ん?」


俺の首筋に顔うずめて傷口を舐めていた。
まだ閉じきっていない傷にしみて痛いし。絶対消毒にはなってないはずだ


「い、痛いっ!離し、てっ」


俺が本気で言えば真哉はすぐにちゅっというリップ音と共に離れていった
その音が俺は無性に恥ずかしかった



「ま、真哉?」

「なーに?」


無邪気な笑顔
さっきまでの行為が何かの間違いだったかのよう
でも、現実に未だに首元の傷がまだ痛んでいる。



―――ガチャ


「おいっ真哉、誰もいなかった…ってお前等何してんだ?」


異様に近い俺と真哉を怪しむ


「あっ、怜…いや、なんでも」

「…真哉…てめぇ騙したな!」

「なんのことぉ?」


慌てて真哉と距離をとれば何かを察知した怜が眉間に皺を寄せた。
しかし、騙したとはどういうことなんだろう。


「?」

「俺を追い出して憂と何しようとしてんだよ!」

「いーじゃーんっ」

怜はどうやら騙されて、この部屋から追い出されていたらしい。
本当に真哉も何したかったんだか…俺にはわからない。


「よくねぇ!だいたいお前何しに来たんだよ」

「あ!そうそう!僕、食堂に誘いに来たんだよー」

「あぁ…なるほどな。じゃあ行くか」

ほら、行くぞ。と言わんばかりの顔を向けられ俺は驚いた。


「お、俺もか?」

「「当たり前」」





俺の平凡生活は高校で叶うことはないみたい。こんな派手な人たちとごはん食べたらもう…俺の平凡は……。


「高校の食堂はやっぱでかいな」
「そうだねー」

「そういや、憂って外部生?」

「違うよ」

「怜ってばバカ?今年は外部生いないって言ってたじゃん」


いやでも俺中学のときかなり存在薄かったから俺のこと知らないのも無理ないよな…。中学は平凡に過ごすっていうより存在を消して過ごしてたって感じだったからなぁ…。面倒事は嫌だったから



「ったく、うっせーなぁ」


その台詞は、真哉に対してか、周りの奴らに対してか


『キャーッ!怜様!』
『かっこいいなぁ』
『真哉ちゃんもいるぅ』
『抱きたーい』
『抱かれたーい』



両方だな…。


『てか、あの平凡…何?』
『なんであの方達といるの?』


耳をすませば簡単に聞こえる俺に対する陰口。
こうやってモテる人たちの隣歩いて食堂に来ればそりゃそうなるくらいは中学の二年間で学んでいた。


「あーっあそこ空いてる!怜ご飯持ってきてねーっ」


気にした様子のない真哉の声がヤケに響く
人気者は毎日こんなんだからもう耳に入ってこないのかな。

「はいはい。いつものでいいか?憂はどうする?」

「えっ俺は自分で「いーからっ憂ちゃんは僕と一緒に待てばいーのっ」

「え…じゃあA定食…」


「わかった。席で待ってろ」


「怜、三人分も持てるかな?」

任せたは良いが三人分を1人で持ってくるのには無理があるんじゃ…。
持ててやっぱり二人分だと思うのだけれど。


「怜なら大丈夫だよーっ」

「…そう?」



暫くしたら怜がふつうに三人分のご飯を持ってきたのにびっくりした
俺は普段この人が多い時間に食堂を利用したことがないのでこんなに人が多いのは新鮮だった

席は二人の隣に座ってご飯を食べる勇気がなかった俺は二人を向かい側に座らせ、俺は一人でこちら側に座った。


「怜と真哉は幼なじみかなにか?」

「違うよー中学の同室者」

「そうなのか?」

「そうだな、それで…まぁ」

「仲いいんだ?」

「そうだよー怜の友達って僕位じゃないかな?」

「怜、友達いないんだね?」

俺と一緒だ


「うるせーよ」




ちょっと不機嫌そうに言った。
なんかこうゆうの友達って感じで心がほかほかした。
早くも絆されている感じがして笑える。



その時



『キャ―――!!!!!!!』




「っ!!!な、なに?」

「もしかして…」

「生徒会だねぇ…」



怜は不機嫌を露わにし、真哉は表情が消えた。
俺たちの席は端の方なのだが生徒会専用の席のそばだった。
幸いにも死角になるとこなので生徒会にお目にかけて貰うことはない席。





って思っていたのに…








「あれ?神田君」









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