教室に着くと携帯は俺の席にちゃんとあった
悪戯された様子もなく無事だった


「よかった…」


もう怜は寮に着いたかもしれない
急いで帰ろう


放課後なのであたりには人が見当たらない
一応進学校なので部活をしている人は多いし
してない人はさっさと部屋に戻って勉強でもするのがここの普通だ


だから放課後は人が本当に少ない


一年生は4階なので階段を降りていた
すると人の声がした





「見つかった?」
「ううん。いなくなっちゃった」
「西城様と話したかったのに」


西城…って


と、軽く考え事をしながら二階の廊下を歩いているといきなり口に手をあてられ俺は教室に連れ込まれた


「ん゙!!!!!」

「しっ」


目に写るのは金色の髪




『ここらへんにいたはずなんだけどなあ』
『今日こそお相手に選んでもらおうと思ったのに』
『抜けがけは駄目だよ!』




廊下で声がした
誰かの親衛隊だな
相手に選んでもらうということはそういうこと。

抜け駆け禁止は親衛隊のルールだ




パタパタと足音が去っていくのがわかった


「…行ったか〜」



後ろ…いや、上から声がする
俺の口を塞いでいる奴は俺の頭の上に顎を乗せていて抱きすくめられている状態だ




とりあえず、近い


「んー!」

「あ、ごめんごめん」




悪いと思っていないような言い方


「はっ、てめぇ何すんだ!…っ!?」


振り向いた時
びっくりした

だって、こいつは…



「ごめんね、憂ちゃん。はじめまして俺、西城 色-サイジョウ シキ-よろしく」

生徒会会計だ


しまった。気づくべきだった
親衛隊が探している奴はこいつだ


「あ、あの俺に何の用スか?」


あのプレイボーイで有名な会計様が俺に何のようだ?


「用?別にないな〜…たまたまさ、親衛隊の子から逃げてたら噂の憂ちゃん見つけたからさぁ」



だからって、連れ込むのか
誘拐の域に達しそうな勢いだったぞ



「憂ちゃん、帝さんの蹴り避けたんでしょうっ?」

「あ、いや。避け切れてはいませんよ…腕けがしたし…」

「帝さんの蹴りくらって腕の怪我で済むこと自体がもうすごいよ!どーりで帝さんがユウだと疑うわけね」

「!」

「まあでも他人らしいね?」

「あ、当たり前じゃないですか」






ビビった…
出来ればこの話はしたくないな…

西城先輩だって黒龍のメンバーだし…

まぁ一応今日も黒のカラコンはしているからバレないだろうけど




「、西城先輩はなんで親衛隊から逃げてたんですか」



俺は話題を変えた
少し、無理矢理だったかもしれない



「あーうん。今日は気分じゃないからさあ、相手する気しないんだよねえ」

「、?」


驚いた
あの来るもの拒まず精神で有名な書記が


「意外って?」

「えっ あ…はい。」

「ぷっ。ははっ!憂ちゃん素直だね!」

「あっすみません…」



不味いこと言ったかもしれない…っ





「いーよ。俺、そうゆう奴だからね」

「…あ」


先輩が悲しそうに見えた

人の悲しむ姿は嫌いだ
自分がさせてしまったのなら尚更


謝ろうと思ったその時。

「つーことで!憂ちゃん、俺と思いで作りするっ?」



さっきの悲しそうな顔が嘘だったかのような笑顔

でも…それは本当の笑顔じゃないんだと思った
もしかしたら先輩は俺が想っているような人じゃないかもしれない
噂だけで俺は先輩の人格を勝手に決めつけていた




「先輩、」

「ん?」

「本命作ってみてはどうですか?」

「へ?」

「本当に好きな人ができると世界が変わって見えますよ。片思いでも些細なことで嬉しくなったりします」


「…」

「人を…嫌わないで、好きになってください」

「!」

「今よりかなり楽しくなりますよ。」




来るもの拒まず

ならばみんなが好きなんだろうと思える

だが、西城先輩は

去るもの追わず

…人が好きだったならば追わずにはいられないはず

追わないのは 人 が嫌いだから


もっと言うと関心がないのかもしれない




「存在を認めて。関心を持って、そうすれば今とは異なったものがありますから」


「憂ちゃん…。」


「もっと笑ってください」



俺は先輩の頬に手を当てた
泣いてるように見えたから
涙は流れていなくても


先輩は何も言わずに俺の手の上に自分の手を重ねた



「ありがとう…」

「いえ、」






そう静かに言うと先輩は少し笑った
それはやはり先ほどの笑顔とは違う
もっと、綺麗なものだった




ほら、先輩はやっぱり、綺麗だ