晴れた日の昼休み。眠くなる昼下がり。移動教室のため廊下を歩いてたら赤也を見かけた。彼は部活の後輩であり、私の彼氏、である。まだ付き合ってから1週間しかたってないし、それらしいことなんてしたことないけれど、それでも一応、私は赤也の彼女。だからって赤也が女の子と一緒に歩いてちゃいけない理由にはなれないけれど、隣を歩く女の子とは、どうやら友達みたいだった。そう、そんなの決して悪いことじゃない。至って普通のことなのに、心がこんなにも否定してる。あっちはこっちに気づいているかもしれないけれど、とにかく私は彼を無視をした。ああ私、おかしい。

友達の会話も全部耳をすり抜けて、気づいたらもう教室の前まで来ていた。あーもういやだ。こんなむしゃくしゃした気分で授業なんて受けたくない。金曜の4限なら、屋上にいけば仁王がいるかもしれない。友達に気分が悪いと一言告げ、そのまま私は保健室ではなく屋上へ向かうことにした。





がちゃりと重い屋上の扉を押し開ければ、晴れた空と風が気持ちいい。もうそろそろ夏服も出番だな。誰もいないベンチに腰を下ろすと、ちょうど4限の始まりを告げるチャイムが鳴った。仁王は今日はまじめに授業に出ているらしい。こんなときは、一人でなにも考えずにぼーっとしてた方がいいかもしれない。

そんなことを考えていると、すぐさまがちゃりと扉の開く音がした。なんだやっぱり仁王もサボリか。私より遅いなんて珍しい。


「って、…あ、れ?」


そこに立っていたのは眩しい白ではなく、夜のような黒。間違いなく赤也だった。彼は何もいわずに近寄ってくると、どすんと音を立てて私の隣に座った。いつもみたいな人懐っこさはなく、なにもしゃべってこない。どうしたんだ。


「…赤也、どした?」

「なんで無視したんスか?」


さっき無視したの、ばれてたのか。それで怒ってたのね、子供だなあ、なんて思ったけれど、元はといえば私がやったことだって同じようなものだ。


「…かわいい女の子と歩いてて、嫉妬した。」

「…先輩だって、仁王先輩といっつもさぼってるの、俺知ってます。」

「え、うそ。なんで知ってるの?」


思わぬ返事に驚いていると、二年の教室から見えるんスよ、とこっちを見ずに赤也が返事を返した。確かにここは二年の教室のある棟とは別棟だから見えないこともない。でもよくそれが私と仁王だと判別できたものだ。


「だからここに来たの?」

「俺も仁王先輩に嫉妬してました。」


きゅーんと胸が締め付けられる。なんだ、かわいい。そして、嬉しい。だからさっきからこんなに拗ねてるんだ…!相変わらずつーんとそっぽを向く赤也が可愛くて仕方ない。もじゃもじゃの髪をわしゃわしゃと撫でてやると、子ども扱いしないでくださいと振り払われた。かわいいなあ、もう。


「ごめん。ごめんね、赤也。仁王とは本当になんでもないから。」

「…もう仁王先輩と2人っきりでサボリとか、やめてくださいよ。」

「うん、2人っきりは、やめとく。」


そうすると赤也にケラケラ笑われた。サボりはするんスね。ああ、まあ、そりゃね。なんだかおかしくなって笑いだしたら、2人っきりの屋上で、2人の笑い声が真っ青な空にしばらく響いていた。ふと、赤也が笑うのをやめて自分の制服のポケットに手をつっこむと、そのまま握った手を私の前に突き出した。


「……先輩、これ。」



開けられた赤也の手の中にあったのは、ピンクのストーンがついたゴールドの華奢なリング。輪の大きさからしてピンキーリングだろうか。


「こないだ店でたまたま見つけて、名前先輩に似合うなって思って。先輩のこと考えてたら、気づいたら買ってたんスよ。」

「…これ、私に?」

「俺、まだ彼氏らしいこと何もできてないから。よかったらもらってください。」

「ありがとう、赤也。すごく、すごく嬉しい!」


赤也が私のために初めて選んでくれたもの。それだけですごく嬉しい。涙が出そう。リングを受け取って小指にはめると、中心についたピンクのストーンがキラキラしてとてもきれいだった。


「名前先輩。」

「ん?」

「好きっスす。」

「私も。」


突き抜けてもどこまでも広がっていそうな青空の下で、私たちは初めてキスをした。

(赤也×ピンキーリング)



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -