初めての恋で人はバカになってしまうのだろうか?
名前との初デートにやっと、こぎつけたのは3日前だったかな。ずっと幼なじみやってきたから、デートとか、本当に誘うのも変な感じがした。
普通に遊びいこーぜ!って言えばいいのにな、緊張とかマジありえねー。
そして、デートも終盤の今まさに、進行形で緊張してるのもマジありえねー。
「ブン太!歩くの早いってば!」
カツカツカツ、と高めの音が後ろからついてくる。
余裕をなくした俺は、緩みそうになるほっぺたをきゅっと引き締めた。なんなんだ、本当に!
スラッと細い脚。まるでマッチ棒みたいな。ポキッて簡単に折れちまいそうな脚を惜し気もなく晒して、薄っぺらなタイツ一枚だけが俺をギリギリのとこに留めてる。
他の男がチラチラ見る度、睨み付けて、でも名前を自慢したいような、そんな矛盾。
カッコ悪すぎだろぃ。
「ブン太、待ってってば、」
「…」
あ〜本当に何やってんだ俺。
黙りを決めこんで黙々と歩く。
でも、名前が悪い。
前までスニーカーしか履いてなかったくせに。よくてローファー履いてる名前しか俺は知らない。知らないんだ。
「ブン太、おねが…きゃ!」
「!!」
ヒールの音が突然消えて、代わりに名前の悲鳴に近い声が飛び込んできたもんだから、慌てて振り返った。
そしたらしゃがみこむ名前が視界に入って、ますます俺の余裕は奪われる。
「名前、大丈夫かよぃ」
「あ、大丈夫つまづいただけなの」
「は?本当に大丈夫か?足首ひねったりしてねぇのか?」
「ほ、本当だってば!」
あたふたしながら、名前は顔を赤くした。
あーかわいい、なんて言えないけど。
これくらいはさ、いいよな?
「名前は鈍臭いからなぁ」
勇気を出して、でもバレたくないからさりげなく、ほい、と手を差し出したら
「え?」
ってキョトン顔。あああもう!
俺の勇気を返せよバカ名前!
「だから、手!」
「手…?」
「名前は鈍臭いから、繋いどいてやるって言ってんだろぃ!分かれ!」
「…ふふ」
なぁんだ。って笑って、名前は手をとって立ち上がった。
そんとき顔が赤かったのは、俺だけじゃなかったからさ、今日ヒール履いてきたこと許してやるよ。
日も暮れて、2つの影がぐんと伸びたのを見つめながら、歩く。
まだ繋いだ手は離してやらないけど、やっと並んで歩けたからか名前はご機嫌だ。
「ブン太ってば、今日下ばっか見てるから、つまんないかなって思っちゃった」
「いや、ちげーって」
「そうなの?せっかく頑張ってヒール履いてきてさ…」
モゴモゴ、と今度は名前が俯く番だった。ちら、と横を見たら恥ずかしそうな名前に指先からどくどく、鼓動が響きそうなくらい胸が苦しくなる。
「なんだよぃ、俺のためにヒール履いてきたってか?」
「う、」
「マジでか」
あーまたかわいいこと言っちゃって。
俺の気を知ってか知らずか分からないけど、名前は小さな手でぎゅっと握って話す。
「ブン太とちょっとでも、目線合わせたくて、頑張って高いやつ履いたんだもん」
…いやいやいや、ヤバイだろぃ
反則だって、そーゆーの
手も繋いだまんま棒立ちになってしまった俺を名前は笑って見つめた。いつもより近い、一緒の目線で。
後日、このこっぱずかしい光景を仁王に見られてたと知り、俺は悶絶することとなる。
でもさ、仕方ないだろぃ?あんなかわいい奴、俺見たことなかったんだからさ。
(パンプス×丸井)