untrue | ナノ


見つけて欲しくなどなかった


今日は彼の結婚式の日
桜が咲く春の日
チャペルの周りは桜が一杯咲いてる、舞い降ちる桜の花びらはすっごく綺麗で、まるで彼と彼女を祝福しているみたいだ
綺麗で儚い花びらは...まるで私の恋心のように、地に落ちて踏まれてボロボロになった

だが、その恋心を踏み潰したのは他でもない私自身というのがあんまりにも滑稽で笑える


高校3年の夏、私は箱学の自転車競技部にいる友達を探すため遠い所からきた
そこまでは順調だけど、なぜかバスに乗ってるはずの私が特有の迷子スキルを発動し、山の中で迷ってしまった

一応待ってみたけど、誰も来ない
バスや車も...
喉が乾いて、バックにいるボトルを取り出したが中身が空っぽ
自動販売機で飲み物を買うつもりだった


「あれ...財布が...」


なくなってしまった。

飲み物がないとわかってしまったら余計辛くなる人間の体はなんでこんな面倒な構造になってるのか神様に聞きたい
このまま倒れてしまうのか私、こんな山の中で?いや、そもそもここは山の何処もわからないけど


「そうだ!!電話があるじゃん!!」


ここでようやく電話という物の存在を思い出した
バックから探し出して、友達に電話した


『はっ?!迷っただと?!』


「あ、うん...」

やっぱり怒るよね...初めてじゃないもんね...

『まったく...何度も途中でバスから降りるなって言っただろう?!』

「違うの!今度は降りてないよ!!」

『ならばなぜ迷った』

「えっと...あれ本当だ、なんで私迷ってるの?」

気付けばもうバスに乗ってないなんだよね、箱根って不思議

『ああああーーッ!!こっちが聞きたいんだよ!』

「ごめんごめん」

謝ったらきっと許してくる、なんて優しい友達

『ったく、今どこいる?』

「わからない今自動販売機の前で転がってる」

『自動販売機...?あっ』

なんか思い出したのかな?
私の居場所わかってるのかな?

『そこで横になって待ってろ、すぐ助けが来る』

「えっ?!いやちょ、まっ」

切られた...
電源も残り少ないし...どうしよ
やはり彼を信じてここで待ってみようかな、今動いたら更に迷う可能性もあるし
でも、横になるってどういう意味なんだ
助けが来るって何処かのゾンビサバイバルゲームかな?


って私死体じゃないんだよ?!


「とりあえず横になるか」

横になって
小鳥のさえずりを聞きながら目を閉じた
今の状況を忘れたら今は絶好の昼寝日和なんだよね...
夏とはいえ今日は涼しいなんだよね...
地面やはりちょっと熱いけど
ヤバイ、本当に眠い
寝っていいかな...誰も来ないし



眠り落ちて、しばらく経った
目に刺さってるはずの光はない
あれまさか日が暮れてるんじゃ...


「嘘?!って痛いっ?!」

急に起き上がった私はなにか青いものにぶつけてしまった
ぶつけた頭が痛い、私は両手で頭を押さえた
どうやら向こうも頭を押さえてる...ってなんだあの前髪は

アホ毛かな?
ぴょんぴょんしている、可愛い
ってそんなこと言ってる場合じゃなかった

「えっと、大丈夫ですか?ごめんなさい急に起き上がって」

「いえ、大丈夫です」

「そうですか、ならよかったです」

あれ、この子に道聞いてみればいいじゃないなにやってるの私
こういう風に人に道を聞くのは久しぶりだなー
前は友達が直接探しに来てくれるんだよね

「あ、あの」

「はい?」

「箱根学園は...」

と、聞くつもりだったけど
向こうはなにかを思い出したようで


「あっ!!君が東堂さんが言ってた女の子かな?」

「えっ?知ってるの?」

驚いた、まさか私の事知ってるとは
あれ、じゃあこの子は...


「東堂さん言ってました道端に倒れてる女の子がいれば間違いなく彼女だと」


そ、そうなんだ...後でしめよう


「ところで、君はどうしたの?東堂さんが待ってるよ」

「いや...道に迷ってしまって...」

あ、そうだ

「飲み物...」

と、また聞くつもりだったが、彼はそのまま私に自分のボトルを差し出した

「ポカリでもいいかい?」




それが私と真波くんの出会い


その後、練習の時にロードについて語り合ってみたり、勉強を教えたとか
真波くんとは友達ではないけど、知り合い以上という変な関係になった


あの子に会う前は...ね


真波くんには、面倒見がいい幼なじみがいた
とても可愛い女の子なんだ
名前はわからない、真波くんはいつも彼女の事を委員長って呼ぶ
そして彼女の事を話す時の真波くんの目は私を見る時の目と違って、とても優しい
初めてだ、ここまでショックを受けたのは
神様、失恋というのはこんなに辛いものなのか
ドラマの主人公に同情してしまうよ

それからは、毎日なにも変わらないまま
インハイを迎えた






そして最終日、箱学は敗れ、総北に王者の座を奪われた


私はただ真波くんの走りを見届け、応援した
所詮レースというものはレーサー自分で頑張って走って勝ってこそレース
強い者が勝つ、弱い者は負ける


レースの後、真波くんは消えた
勿論私は探して、そして見つけた
景色がとても綺麗な所だけど
彼は泣いていた
涙が一杯出てる、こんな顔誰にも見られたくないだろう
しかし私はあえて彼を呼ぶ

「真波くん」

「...っ」

彼が柵を力強く掴んで、顔を伏せた
涙が頬を濡らし、ポタポタと地面に落ちる
こんな彼は初めてみた

「こっち見ないでね、そのまま聴いて」

私は泣かない、いつ真波くんがこっち見ても笑顔でいられるように

「私、もう自分の国に帰るの。この夏が終わったらもう会えなくなるの」

堪えて、涙勝手に出て来ないでよ

「大学も、そっちのにするから...本当にもう会えなくなるから...」

やはり、
こみ上げてくる感情を抑え切れず、熱い涙が流れた

「最後、言っておくね」

でもまだ大丈夫、いける
私は拳を握り締め、今すぐ彼を抱きしめて一緒に泣き叫びたいのを我慢した

「私、真波くんの事大嫌いだよ」

実際、誰かを励ますのは苦手
励ますって言っても、他人になにが出来るというのっていつも思ってる
でも今は、ものすごく彼を励ましたい、慰めたい
いや、慰めるのは私の仕事じゃないか

「福富くんが作った最強のチームなのになんで負けたの?バカじゃないの?王者の座、奪われちゃったよ」

ああ、今の私完全悪役じゃん
でも、このまま引く訳にはいかない

「皆の期待を裏切って、なによ」

「それで泣いてるの?情けないね、そんなじゃダメよ」

ねえ?もういいよね?
このまま一杯抱きしめて泣いてもいいよね?
私は真波くんの隣に立って
涙がポロポロこぼれて、くしゃくしゃな彼の顔を持ち上げて

「次こそ、勝って...表彰台の上で笑ってる顔を見せてね?」

悲しみや恨み悔しい感情も吹っ飛ばす程の最高の笑顔を彼に送って

私は静かに、その場を去った
まとまった荷物
東堂にも教えていない新しい電話番号
親も知らない何処かに行く飛行機チケットを持って
私は向かう










ただ花びらを見つめてるのになんでこんなに一杯浮かんで来るんだろう

後ろからは懐かしい彼らの声と



「あ、みょうじ先輩来てくれたの?」

「あー....うん、そうだけどやはり来ないほうがいい?」

一番会いたくないヤツの声だ...
振り向いちゃだめだ私、耐えろ...

「今日タキシード着てるんだけど...」

「あ、そう」

「こっち向いてくれないと見せてあげられないよ?それに...」

「なに...っ?!」

気が付けば真波くんは私の後ろに立っていた、私の顎を持ち上げた、目を逸したいのに真波くんは離してくれない

「先輩酷いよ、嘘なんかついて」

「え?!」

嘘?私、真波くんに嘘ついた事なんて...あったけど
もう気にするほどの物じゃない...大嫌いって言っても...今はもう気にしないはずなのに

「インハイの表彰式、先輩を探したけどいなかった」

「表彰...式?」

「レース見てくれないのはいいとして、表彰式で笑ってる俺の顔が見たいでしょ?それなのに...」

「え、覚えてるの...?」

「先輩酷過ぎ、最終日で勝つ為に俺の努力は一体...」

真波くんはしょんぼりと頭をうなだれる
一方、私は昔の約束をちゃんと果たしてくれた事に驚いて、そして喜んだ

「ありがとうね、でも今日は結婚式でしょ?その話は後で聞くから」

そうだ、今日は結婚式
タキシード姿の真波くんまるでプリンスのようだ、かっこいい
でも、プリンセスは私じゃない



「ドレス姿の委員長ちゃんが待ってるよ?」

なんて、笑って誤魔化したら



「えっ?俺の奥さん、委員長じゃないよ?」

「ええっ?!」

じゃ、じゃあ一体誰?!真波くんが好きになって、求婚するような女の子って...!!
とか、色々考えてパニックに落ちた




「俺の前にいるよ?俺の奥さん」



何年探したと思う?

わからないけど、見つけて欲しくなかったなぁ

ええ...なんで?

そうしたら真波くんはずっと私のこと思ってくれるじゃん?それに...

それに?

両思いなのに、勘違いして逃げたとか恥ずかしい過ぎ、知られたくないもん

先輩

なに?

愛してるよ、ずっと俺の隣にいて、もう嘘つかないで

私も愛してるよ、嘘なんてもういらない





あなたが側にいてくれるのならば、嘘などいらない





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