2.そう思っていた時期が俺にもありました


昔から年上の女の人に弱かった。
それゆえ年上が好きというのは嘘ではない。
とはいえ初恋とも呼べるエレーナ先生がいなくなって以来、女にモテはすれど恋とは無縁の人生…のはずだったんだが。

「……おい光。」
「あ?なんだよ。」
「あの人、誰だ。」

毎日のように通っている構内の図書館。
貸出カウンターにいつもはいない女の人が座っている。
肩より少し短いボブヘアは痛みもない烏の濡れ羽色で窓から差し込む光にキラキラと反射していて、そこだけ空気が違うかのようだった。

「あー今年辞めた司書のおばちゃんの代わりに新しく入った知紗ちゃんだな。」

情報通な光に聞けば案の定知っていたらしい。
知紗ちゃん、とフランクな敬称で呼ぶあたりそれなりの仲なのか。
とはいえ今は5月。
すでに今年度に入って1ヶ月も経っていたのに何故気付かなかった?
いやそんな事より……。

「てかお前顔赤……、え?え、ちょまさか…。」
「やめろ見るな……。」
「えええええ?!ウッソお前マジで?!!?」

ぐんぐんと顔に集まる熱。
図書館なのに大きな声をあげてぐわんぐわんと俺の肩を揺らす光に周りの視線が集まる。
それはもちろん、カウンターにいる彼女にも言える事で…。

「〜〜〜〜!!!!」
「えっちょ、ゼロ!おい待てよ!」

まるで大理石のような輝きを持つ瞳と目が合った瞬間、何かがぶわっと込み上げてきて脱兎の如く図書館から走り去る。
後ろから光の呼び止める声が聞こえたが止まることなんて出来なかった。
嘘だろ…この歳になって、こんな、こんな……。



降谷零(20)、どうやら恋に落ちたようです。



(おま、ちょ、待てよ……。)
(わ、悪い……。)
(あー苦しかった…てかお前ガチ?ガチで恋しちゃったの?一目惚れ???)
(…………。)
(えぇええええマジかよ…顔めっちゃ赤いぞ。褐色なのにめっちゃ赤いぞ。)